シルヴァンの唇に押し当てられた指先は、細かく震えていた。それでも、シルヴァンを見つめる瞳は伏せられることもなく、揺れることもなかった。ただ、潤みを帯びて、星が散るように煌く。
 細い手首を掴めば、さしたる抵抗もなくその手は退いた。

 きゅっと結ばれたの唇は、鮮やかな口紅に彩られているわけでもなく、濡れたように艶めいているわけでもない。けれど、シルヴァンにとっては、かぶりつきたいくらいに情欲的に見えた。
 シルヴァンは、無意識にごくりと生唾を飲み込む。
 今すぐに押し倒してしまいたい衝動を抑えて、シルヴァンはやさしく唇を触れ合わせる。が目を閉じる。睫毛の先が濡れていた。けれども、粒となって頬を伝うほどの涙が浮かんではいなかったようだ。乾いたままのの頬に、シルヴァンは手のひらを添える。
 ほんのりと湿っぽい目尻に指を這わせれば、がくすぐったそうに睫毛を震わせた。

「……

 シルヴァンの声には隠しきれない欲が滲んでいた。
 押し上げられた瞼の先に、潤んだ瞳があった。好きだ、という思いが口にされなくたって、伝わってくる。の白い首筋までもが赤く染まって、ひどく熱い。

 輪郭を指でなぞって顎先まで伝わせて、喉元をくすぐるように触れる。「ん、」との唇から漏れた小さな声が、たったそれだけなのにシルヴァンの熱を煽った。

 机を挟んだ距離がもどかしい。シルヴァンは焦ったさを覚えて、小さく舌を打った。フェリクスじゃあるまいしと頭の片隅で思い、びくりと身を竦ませたに申し訳ないとも思う。しかし、すぐに別の思考に上書きされていく。
 ──が欲しい。

 乗り出していた身を一度引いて、を攫うようにして寝台に組み敷く。この狭い部屋では、寝台も机もすぐそこだ。
 こんなにやさしくしてやりたいと思ったのは初めてだった。だけれども、情けないことにシルヴァンにはちっとも余裕がない。こんなにも欲しいと思うのも初めてだ。

 の髪が敷布に広がる。
 赤くなった耳が見えて、シルヴァンは手を伸ばした。耳の形を確かめるように、指先で軟骨をなぞる。

「あ……」

 上擦った声を恥じるように、が口元を手で隠した。

「声、抑えるなよ」
「は、はい……」

 返事こそ素直なものだったが、の顔は困惑と躊躇いに満ちていた。口元からそろりと避けられた手は、不安げにシルヴァンの服を掴む。

 学生寮の壁はそこまで分厚くはない。
 だからこそ、シルヴァンが部屋に女性を連れ込んだり、朝帰りしたりすると隣室のディミトリが黙っていなかった。この部屋はべレスの部屋にほど近く、しかし両隣は空室のままのはずだ。

の可愛い声、聞かせてくれ」

 先ほどまで指で触れていた耳朶に、唇で触れる。びくりとの身体が跳ねて、服を掴む手にぎゅうと力がこもる。

 室内着の合わせ目を肌蹴れば、薄手の寝巻が心許なげに肌を覆っている。刺繍の施された豪華な胸元の、小さな釦を外していくたびに膨らみを覆う下着が顕になる。
 腹部まで続く釦を外し切ると、シルヴァンは一度身体を起こしてを見下ろした。

「は……恥ずかしいです………」

 が消え入るような声で告げる。
 部屋の灯りをすこしも絞っていないと気づいたが、シルヴァンは今更暗くしようとは思わなかった。指先で鎖骨を撫で、そのまま肌に触れながら下へと降りてく。ふんわりとした乳房の感触を楽しみ、吸い付くようなすべらかな肌理を楽しみ、シルヴァンの指は臍の窪みで止まる。

「白いな。……雪みたいだ」

 降り積もったばかりの新雪みたいな、汚れのない真白。
 這わせたシルヴァンの手もまた、あまり日に焼けていない肌の色だが、どうしたって血に塗れているように感じる。に触れるのを思わず躊躇うほどに、この手は人を殺めている。
 そんな手なのには好きだと言ってくれるのか。

 つい先刻のの言葉を思い出して、シルヴァンの頬がじわりと熱を持つ。
 する、と手を上へ動かすと、シルヴァンは指を引っ掛けて下着をずらした。揺れた乳房が溢れるように現れる。シルヴァンは手中に納めて、そのやわらかさを堪能する。

「ん……っ」

 ぴく、とが身をよじる。
 堪えるような吐息を漏らした唇に、シルヴァンは啄むように口付ける。何度かそうしてから、薄く開かれた唇を割って口腔内へ舌を侵入させる。
 いつかの夜と違って、舌が逃げ回ることはなかった。 シルヴァンの伸ばした舌先に応えるように、の舌が絡まる。あまり厚みのないやわらかい舌は、熱くてぬめっていた。ざらついた舌の表面を擦り合わせ、つるりとした舌の裏側を舌先で突くように舐め上げる。

 びくっ、との身体が時折跳ねるように震える。
 シルヴァンの手によって形を変えるやわらかな乳房の中心が、次第に硬く尖っていくのがわかった。

 親指と人差し指で、ぷくりと立ち上がった乳首を挟む。「っふ、う……!」重なった唇の奥で、くぐもった声が漏れる。

「ん、ぅ……っは」

 シルヴァンは唇を離す。の口角から唾液が伝うことに気づいて、ぺろりと舐めとる。
 シルヴァン様、と動いたその唇からはほとんど音がなかった。

 の眉根は切なげに寄せられており、瞳の縁に涙が溜まっていた。シルヴァンはこつんと額を合わせる。

「可愛い」

 苦笑交じりに告げたシルヴァンの声は、余裕をなくして掠れていた。



 ちゅっ、と小さく音を立てながら、シルヴァンは首元から胸元に向かって肌に唇を落としていく。

「んっ、ふ、あっ……」

 乳房を下から掬い上げて、薄く色づく頂をぱくりと口に含む。の背が反って、腰が浮く。シルヴァンはその隙間に手を差し込んで、を抱き寄せる。

「あっ、っは、ん、ァあ」

 が身をくねらせるが、シルヴァンの腕によって固定された身体はほとんど動かず、むしろより密着してしまう。シルヴァンの猛りが太ももに触れるのがわかったのか、がピタリと動きを止めた。
 シルヴァンは乳首を口に含んだまま、視線を上げる。ぎゅっと瞑られたの目尻から、涙が溢れた。これ以上ないくらいに紅潮した頬を、ゆっくりと伝い落ちていく。

 綺麗で、尊くて、それなのに扇情的な涙だった。
 何かを言いかけたシルヴァンの唇は、言葉を紡ぐことなくちゅうと乳首に吸い付く。

「あっ……!」

 の甲高く、か細い声が、シルヴァンの脳を直接刺激するようだった。腰の奥がぞくりと震える。
 舌の表面で飴玉を転がすように乳首を舐め、舌先で押し潰す。シルヴァンの腕の中で、がビクビクと震えるのを感じる。やさしく歯を立てて、下唇とで食む。の手がぎゅっとシルヴァンを縋って抱きついた。

 シルヴァンはわざとの太ももに自身を押し付けながら、片手を下腹部から脚の付け根へと這わせた。
 一瞬だけ強張って閉じかけた脚が、シルヴァンを受け入れるようにわずかに開かれる。はは、とシルヴァンは小さく笑う。

は俺に甘いよなぁ」
「そ、そんなことは……っぁ、ん」

 下着の中心は湿り気を帯びていた。ゆっくりと上下になぞるのを繰り返してから、下着をすこしばかりずらして直接秘部へと指を触れさせる。

「指、入れるな」

 はい、と従順にが頷くのを確認して、シルヴァンは中指を中心に埋めた。
 十分にぬかるんだそこは、シルヴァンの指を飲み込むようだった。膣壁がうねって、指一本をきゅうと包む。シルヴァンはゆっくりと指を折り曲げ、ゆるい刺激を与える。

「ん……!」

 のつま先が跳ねる。
 漏れる声は甘ったるく、痛みはないようだ。シルヴァンはほっとしながら、指の動きをすこしずつ早める。

「あっ……あ、あァ……ッ」

 恥じらいに目を瞑るだが、シルヴァンの言葉を忘れずに声を堪えることはしない。
 シルヴァンは胸の上部に唇を落とし、きつく吸い付いた。白い肌にすぐに赤い痕がついた。こんな所有印がなくたって、が身も心もすべてを委ねてくれているのはわかりきったことだ。己の欲深さに呆れながら、シルヴァンはやさしくそこを舐める。

「は……ぅ、んん……」

 の吐息までが甘く感じる。シルヴァンは一度指を引き抜くと、大きく脚を開かせた。「えっ」と、困惑する声が頭上から聞こえる。
 それを知りながら、シルヴァンは脚の間へ身を割り込ませた。濡れて張り付く下着をやや強引に脱がせてしまう。とろり、と秘部から愛液が溢れて、艶めくように濡れている。

「し、シルヴァン様……!」
、そのまま」

 上体を起こそうとしたを制し、シルヴァンは秘部に唇を寄せる。

「き、汚いです、シルヴァン様」
「……に汚いところなんてねぇよ」

 俺と違って、という言葉を飲み込んで、シルヴァンは大陰唇に舌を這わせた。ぶるりとの内腿が震える。
 尖らせた舌先を膣内に押し込む。

「っひ、……ン、っあ!」

 の愛液とシルヴァンの唾液で、ぐずぐずになっていく。
 シルヴァンは唇をずらして、小さな突起にやさしく触れる。そうしながら、秘部へと二本の指を埋め込む。「シルヴァン様、」と名を呼ぶ声は上擦って震えて、ほとんど涙声だった。

 の秘部が指を溶かし、の声が脳を溶かしていく錯覚を覚える。
 やさしくしてやりたい。
 そう思うくせに、衝動のままに激しく抱いてしまいたいとも思うのだ。
 ふいに、髪にの手が触れた。それは制止の意味など欠片も含んでいなかった。やさしく梳くように、指先が髪に差し込まれる。

 シルヴァンは顔を上げる。涙に濡れたの瞳が、真っ直ぐにこちらを見ていた。どきりとしたのかギクリとしたのか、シルヴァンにも判断がつかない。ただ、心臓が大きく跳ねて、体温が上昇した。

「シルヴァン様のお好きなようになさってください。わたしの前では、何も我慢して欲しくありません」
「馬鹿、煽るなよ……」

 ふー、と長いため息を吐き出して、シルヴァンは身体を起こした。

「挿れたい」

 短く告げる。もう偽ってきた自分はいなかった。欲望だらけの、醜い本音があけすけだった。
 がやさしく笑んで、頷いた。


 すべて服を脱ぎ去って、の肩に引っかかる寝巻きとずれたままの下着を取り払う。怒張した自身を秘部の入り口へと添える。
 くちゅ、と淫猥な音が鼓膜を震わせた。
 鬼頭が膣壁を押し広げ、そのあとは愛液のおかげですんなりと奥まで挿入することができた。熱く蕩けたのなかが、異物を追い出すようにきつく収縮する。

「はぁ……くそ、締め過ぎだろ……」
「あ……ッ」

 ひくん、とシルヴァンの言葉に反応するように、膣壁が蠢く。
 シルヴァンは細く息を吐き出し、の身体を抱きしめた。どこもかしこもやわらかく、熱すぎるその体温が心地よい。の手が、すぐに応えるように背に回る。

 ぴたりとくっついた肌から、の激しい鼓動が伝わってくる。シルヴァンは身をわずかに起こし、唇を重ねた。

「んんっ」

 そのまま律動を始める。絡められていた舌が次第におろそかになって、が唇の隙間から嬌声を漏らす。

「ァっ、あ、はっ……ああっ、ア……!」
「……っはあ」

 気がつけば、シルヴァンの息も弾んでいた。
 腰を打ちつけるたびにぐちゅりと水音が鳴って、の嬌声と混じり合う。ぐい、と膝裏を掴んで脚を左右に開かせる。灯に照らされて、浮かぶ汗の粒も火照った肌も、結合部さえもよく見えた。

 男根が飲み込まれていく様は、視覚的にもひどくシルヴァンを興奮させる。濡れた恥毛がくっついては離れてを繰り返す。

「ん……あぁ、あ、……ふぁ、う……」

 シルヴァンの律動に合わせて、が断続的に嬌声を上げる。
 揺れる乳房に誘われるがまま、シルヴァンは手を伸ばして揉みしだいた。の背が弓なりにしなって、膣内が狭まる。

「っ……」

 シルヴァンは息を堪えて、一度動きを止める。が閉じていた瞳を、薄らと開けた。

「……気持ち良すぎんだよ」

 ぽつりと落とした呟きは、拗ねたような響きを持っていた。
 が瞳を伏せて、手で頬を隠す。その恥じらう仕草でさえも、シルヴァンを昂らせてならない。

 シルヴァンはの片脚を跨ぐと、もう一方の脚を持ち上げた。ふくらはぎに口づけを落とし、その脚を肩にかける。ぐ、とより深く奥まで男根が埋まっていく。

「っああん、ぁあ……!」

 ぐり、と子宮口を押し上げる感覚がして、が一際大きな声を上げて顎を仰け反らせる。
 シルヴァンは太ももを抱えるようにしての身体を固定して、何度も腰を打ちつける。が悶えるように身をくねらせ、それと同調するかの如く膣壁もうねる。

「は、あ……!」
「あっ、あンッ、ああっ、」

 大きく脚を開かせているので、秘部は丸見えだ。シルヴァンは淡い恥毛を割って、小さな突起に触れる。

「ひゃ、うっ……やっ、……あっあ……あ!」

 親指の腹でやさしく捏ねながらも、律動を止めない。の声が切羽詰まったものに変わっていき、膣奥がぎゅうっと締まっていく。

「んん、ふっ……う……ッ!」

 抱えるの脚がピンと突っ張る。と、同時に膣がひくひくと蠢いた。
 うねる膣壁に堪えきれず、シルヴァンは自身を引き抜いた。びくびくと震えるの腹部に欲を吐き出す。
 くたりとして力ないの指先が、緩慢な動きで白濁液を掬う。気怠げなその様がひどく淫靡で、シルヴァンはごくりと喉を鳴らした。

「だから、煽るなよ。これでもまだ、自制してんだ」

 の瞳がゆっくりと瞬いて、シルヴァンを見る。意図せず溢れた涙が妙に色っぽく、憎らしくて愛らしい。
 シルヴァンはため息を一つ吐いて、目尻に唇を寄せた。ほんのりと塩味がした。

劣情の隙間の光芒

(どうか君だけはこの手に、)