(100題「受取不可」続き)
(捏造過多です)













、目が覚めたようだ」

 ミスルンの声が耳を打つ。
 けれど、すぐにはその意味を理解できずに、はのろのろと目線をあげる。ミスルンの黒い瞳は、を捉えてはいなかった。

 目が覚めたようだ。誰の──と、そこまで考えてようやく、はカブルーの存在を思い出したのだった。
 は、と小さく息を呑んで、振り向く。

「……なに、して…………」

 カブルーの声は掠れていたが、それは寝起きのせいではないだろう。
 はあ、と深くため息を吐くと、苛立ったように髪をかき上げる。垣間見えた額には青筋が浮かんでいるように見えた。

 を見下ろす空色の瞳は、侮蔑に満ちていた。そうと気づいて、の身体が硬直する。羞恥で顔に熱が集まってくる。

「あんたたち、そういう関係だったのか」
「そういう?」

 ミスルンが平坦な声で聞き返しながら、わずかに身を起こした。
 は相変わらず、這いつくばる格好のままカブルーを見上げ、石のように固まって動けない。ミスルンの指先が髪に差し込まれ、の顔をもとの方向へと導いた。

「私に性欲はない。これは生理現象の処理であり、の仕事だ」

 どこまでも、温度のない声だった。当然だ。ミスルンにあるのは、復讐心だけだ。
 の眼前にある性器は確かに勃起しているけれども、性的欲求があるわけではない。ただの生理現象、いわゆる疲れマラというやつだ。
 陰茎はの唾液で濡れて、艶めくようだった。ミスルンの身体の一部だと思うと、不思議なくらいにアンバランスで、それが却ってなまめかしい。

「……続けろ」

 言われるがまま、は陰茎に舌を這わせた。カブルーが見ていると知っていても、この行為をやめられない。

「ちょっ……外に出てます」
「必要ない」
「はあ?」

 差し込まれたままだったミスルンの指が、ぐっとの頭を押さえつけた。
 口を開ければ陰茎がねじ込まれ、無遠慮に頭を動かされる。ときおり、喉まで届いて苦しかったが、は抵抗をしない。ただ、涙が頬を伝い落ちた。

「出す」

 ミスルンが告げると同時に、の口内を精液が満たした。口から溢れてしまわぬように飲み込んで、ちゅうと亀頭に吸いつく。
 よくやった、というように、ミスルンの手がの頭を撫でた。

 は口元を拭いながら、身体を起こす。あとはミスルンの身を清めるだけだ。

「勃ったか?」
「な……」

 ミスルンがを抱き寄せながら、問いかける。「ミスルンさま?」には、ミスルンの意図が読めなかった。

の相手をしてやってくれ。もう”スイッチ”が入っている」

 ミスルンの指が、の股間に伸びる。下着の中心は、すでに濡れて染みになってしまっていた。
 軽く擦られるだけで、は身を震わせる。

「……嫌ですよ、冗談じゃない」

 は唇を噛みしめる。
 だというのに、ミスルンの指が下着越しに秘部を引っ掻くせいで、声が漏れ出てしまう。

「ん、ぅ……ッ」

 確かに身体は火照ってつらい。けれど、カブルーにその熱をおさめてもらうなんて、だって嫌だ。そんなことはさせたくない。
 はカブルーを見る。涙で滲んで、その表情がよくわからなかった。

「いいんです、わたしのことは構わないでください。ひとりで……っあ、」

 ミスルンがの下着の中へと指を滑り込ませた。は思わず、ミスルンにしがみつく。

「み、ミスルンさま、おやめください……」
「何故」
「っは、あァ、カブルーさまが、見て、」
「見せつけて、焚きつければいい。互いに、そのほうが早く楽になれる」

 諭すように言いながら、ミスルンが下着を取り払った。の背後に立つカブルーには秘部が丸見えである。
 はふるふると首を横に振る。
 ぎゅうと閉じた瞳から、ぽろぽろと涙が落ちる。恥ずかしくて情けなくて、それなのにカブルーに見られていると思うだけで、秘部からとろりと愛液が溢れてしまう。ミスルンの言う通り、すでにスイッチは入っているのだ。

 カブルーが深いため息を吐いた。

「ああもう! ……知りませんからね」

 吐き捨てるように言ったカブルーの手が、の剥き出しの臀部に伸びる。の身体が震えたのは、驚きと恐怖と、期待のせいだった。


 褐色の指が飲み込まれるように、くちゅりと音を立てて秘部に埋まる。

「っ……」

 はミスルンの肩口に唇を押しつけて、嬌声を飲み込んだ。
 ミスルンの手が、あやすように背に触れる。ただそれだけのことさえも、の身体は快感へと変換してしまう。びくりと身を震わせながら、はミスルンを見やった。

「ミ、スル──あ、ぅン……!」

 くい、と膣内の指が曲がって、壁を擦る。は顔をあげていられずに、ミスルンに凭れた。

「っや、だめ、カブルーさまッ」
「ほんとうに嫌ですか? 俺には喜んでいるように見えますけど」

 カブルーのもう一方の手が、の顎を捉えて後ろを向かせた。宝石のようにきれいなその瞳に、の歪んだ顔が映っている。涙に濡れた頬は紅潮して、荒い息を吐きだす唇の端から唾液が零れている。快楽におぼれた、浅ましい女の顔だ。
 ぐにゃ、と視界が歪んで不鮮明になる。
 涙が次から次へと落ちて、カブルーの手を濡らした。

「カブルー、手を止めるな」
「え……」
「身を委ねろ、。これ以上駄々を捏ねるな」

 ミスルンの言うことは、いつだって正しい。感情を挟まないからだ。
 はいつも迷うし躊躇うし、間違いもする。いやですと言いかけて、は唇を噛んだ。

「…………して、ください……」

 声を振り絞る。カブルーを見つめることができなかったのは、きれいな瞳を汚してしまう気がしたせいだった。

「頼みごとをするときは、相手の顔を見てくださいね」

 穏やかな物言いだったが、棘のある声音だった。
 一度離れたカブルーが、の身体をぐるりと反転させた。背もたれのようになったミスルンが、の肩に片腕を絡めて身体を固定する。
 カブルーがの脚を割り開き、身を乗り出す。

「何をして欲しいんです?」
「っ……」
「ほら、はっきり言ってくれないとわかりませんよ」

 カブルーの顔には笑みが張りついている。けれど、細められた瞳は冷え冷えとしていた。

 は無意識に非難がましい視線をカブルーに向けていた。
 けれど、文句を言えるはずもなかった。身体がじりじりと灼けつくようだった。ミスルンの触れている部分が、熱を帯びる。晒された秘部がひくりと震える。

「抱いてください、カブルーさま」

 もう、とうに限界だった。

 真面目そうな顔して、とカブルーが小さく舌を打った。
 濡れそぼった秘部に指を二本突き立てて「前戯は必要なさそうですね」と、カブルーが呟く。

「い、いりません、あっ、ん」
「じゃあ、さっさと終わらせましょう」

 指を引き抜いたかと思えば、すぐに男根がそこへ添えられる。確かな熱量に、の身体がぴくりと跳ねた。
 カブルーが確認を取るように、をじっと見つめた。はぼんやりとカブルーを見つめ返す。もはや、その視線の意図を読み取ることも困難だった。
 一度、カブルーの視線がから外れる。ミスルンを窺ったようだ。背後で、頷く気配がする。

「っひ、ああっ……!」

 褐色の手がぐっと腰を掴んだ。亀頭が、の膣壁を押し開いて入ってくる。
 体格の差だろうか、カブルーの男根はひどく大きいようだった。膣内を満たしていく質量を感じる。こつ、とノックするようにの最奥に届いてしまった。

「はあ、っんあ、ァあ、っふ、う」

 は片手で口元を覆う。耳障りな甲高い声が、自分のものであると信じたくなかった。
 ミスルンがその手を押さえつけ、挙句にの服を取り払ってしまう。露わになった胸元に、引き寄せられるようにカブルーの手が伸びた。

「やあっ、ああッ、あん、あぁア!」

 の白い乳房に、褐色の指先が沈む。ぞわぞわとした感覚が背筋を駆け上り、は反射的に背を反らした。けれど、ミスルンに捕らわれているせいで身じろぎもままならない。
 ぷくりとした乳首を捏ねながら、数度腰を打ちつけられるだけで、は達した。

 なだめる手つきでミスルンの手のひらが、の腹部を撫でた。そこには、刺青のようなしるしが浮き上がっている。目に刺さるような濃ピンク色だ。

「数度気をやれば、この印が薄くなっていくはずだ」
「これは……?」
「後で説明する」
「……」

 カブルーが不満げに目を細めた。「まあいいですけど」と、口にしながらもやはり、納得のいかない顔をしている。

「……さん、まだ終わってませんよ」

 止めていた律動がゆるく再開される。
 カブルーに顔を覗き込まれ、はさっと目を伏せた。カブルーの指が、目の縁に溜まった涙をやさしい仕草で拭う。

「カブルーさま……」

 言いたいことがあったはずだった。謝りたかったのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
 薄く開いた唇に、カブルーの唇が重なる。柔らかい唇の感触が心地よい。生暖かい舌が、ぬるりと口内へ滑り込んでくる。
 ──思考がドロドロに溶けていく。

 離れた唇に追い縋るように、はカブルーの首に腕を回した。ふ、と笑う吐息が口先に触れる。
 カブルーの口づけが頬に落ち、目尻に落ち、こめかみに落ちた。

「ひゃうっ!」

 耳朶をやわく噛まれて、悲鳴じみた声が漏れる。トールマンにはない耳の尖りを口に含まれ、ぞくりとした感覚には首を竦めた。

「逃げないでくださいよ」

 逃げられるわけもないのに、カブルーががっちりと腰を掴んで、深く挿入してくる。ぐ、と奥を潰される感覚は苦しくも気持ちいい。

「あァあっ、んんッ、はあっ、あ」

 カブルーが腰を打ちつけるたびに、淫猥な水音があたりに響く。
 みちりと膣内を埋めつくす男根は、のいいところを抉るように刺激する。無意識に腰が浮いてしまう。

「ああ、や、っあ、また……!」
「いいですよ、イってください」

 カブルーの掠れた声が耳穴に吹き込まれる。同時に、ぐりっと男根の先端が子宮を押し潰した。

「ァ、ああっ……!」

 か細い嬌声を発した喉をのけぞらせ、は絶頂する。快楽の波が押し寄せるばかりで、引いていかない。

「きつ……!」

 カブルーが眉をひそめ、動きを止めた。
 しかし、の息が整わぬうちに、律動を再開する。

「待っ、やだ、あっ、ああァっ!」

 陸に挙げられた魚のように、びくびくとの身体が跳ねる。ミスルンの手が、恐らく押さえつけるために、乳房を掴んだ。きゅっと立ち上がった乳首を摘み上げるのは、気まぐれだろうか。
 カブルーの唇が首筋に降りる。はカブルーに縋った。そうでもしないと、どこかへ飛んでいってしまうような気がした。

「いやっ、いや、」
「嫌じゃないですよね?」
「いじ、わる、言わ……ッないでぇ、っはァ、んんン!」

 ぬるりとした感触が首を這う。ちゅう、と吸いつかれて、それがカブルーの舌であったと気づいた。

「気持ちいい、の間違いでしょ?」

 カブルーの声が遠い。
 目の前がチカチカと明滅する。ピン、とつま先が跳ねて、膣壁が収縮する。

──っ!」

 カブルーの律動は止まらない。は過ぎる快楽から逃れる術を持たずに、ただ溺れていくことしかできなかった。







 汗で張りついた髪を払ってやる。
 の美しい顔は、涙やらなんやらでぐちゃぐちゃだった。

 5回ほど達したところで、腹部の印とやらは薄くなって、いまはすっかり消えている。
 印があったところに視線を落として、白濁液で汚れていることに気づいたカブルーは、慌ててそれを拭い取った。流れでそのままの身なりを整える。

 ミスルンにいいように乗せられてしまったことが、気に食わない。思わずミスルンを睨んでしまったが、じっと見つめ返されるだけだった。

「説明してくれるんでしたよね?」
「……?」

 何の? とでも言い出しそうなその顔に腹が立って、カブルーは小さく舌打ちする。

さんの腹にあった印です」
「ああ……あれは呪いだ。は定期的に精液を摂取しなければ生きられない。ただし、摂取すると“スイッチ”が入る」
「…………は?」

 知らず、地を這うような声が出た。

「愛玩奴隷だったようだ。私が拾った」
「……」
「この呪いの厄介なところは、術者が死んでなお消えないところだ。かけられた本人の魔力でしか打ち破れない」
「つまり?」

 ミスルンがに視線を移す。
 あどけない寝顔だ。もっとも、眠ったというより、気を失ったに近い。

の成長を待つしかない」
「気が遠くなりますね。成長したとして、呪いをかけた術者より弱ければ……」
「呪いは解けない。死ぬまでこのままだ」

 カブルーは顔をしかめる。トールマンならばたかだか5,60年の命だが、エルフは長命種だ。ほんとうに、考えるだけで気が遠くなる。

「哀れと思うか」
「……まあ、それなりに」

 が小さく身じろぐ。カブルーは、目尻に残る涙を指で拭ってやる。

「ならば、抱いてやれ。私にはできないことだ」

 耳を疑うが、ミスルンは真剣な様子である。カブルーはにっこりと笑う。

「嫌です。二度とごめんだ」

 あんなふうに泣かれて、思うところがないわけないだろう。とはいえ、この苛立ちをぶつけたとて、ミスルンにはきっとわかりやしない。
 哀れ──そう、それ以上の感情など、ここには存在しない。してはいけない。

 の痴態を忘れようと思うのに、それができないのは、愚かにも情事の証を残してしまったせいだろうか。カブルーは指先で、の首元の鬱血痕をなぞる。
 それが消えるのには、時間がかかりそうだ。

君の連れていた後ろ暗さ

(知りたくなかった、なんて後の祭りである)