セテスがもどかしげに、急いた仕草で服を脱ぎ捨てる。
 は小さく息を呑んで、咄嗟に目を逸らした。聖職者然とした服の下に、これほど鍛え抜かれた肉体が隠れていたとは知らなかった。

「どうした? 裸など、見慣れているだろう」
「み、見慣れているというほどでは」

 確かに、ガルグ=マクの医務室には、怪我を負った騎士たちも訪れるし、士官学校の生徒もよく利用している。けれどそれらはすべて、仕事に過ぎない。
 ふ、と笑ったセテスが、の手を取り胸元へと運んだ。
 手のひらに、隆起した筋肉を感じる。そこらの騎士よりもずっと筋骨隆々だ。

 手の置きどころに迷っていると、セテスの身体に傷跡があることに気づいた。触らなければわからないほどの細かな傷から、目に見えて大怪我とわかるものまで、いくつもある。
 は肩口の傷跡へ、指を走らせた。

「すべて古傷だ。いつついたのかさえ忘れてしまったよ」

 のぽかんとした顔に気づいて、セテスが目尻をやさしく細める。

「ふふ、こう見えて私も昔はやんちゃをしたんだ」
「セテス様が? 想像できません」
「それはよかった。大司教補佐たるもの、威厳を保たなくてはな」

 台詞だけは真面目なものだったが、セテスの声は笑いを含んでいた。
 の手を首に回させる。「緊張は解れただろうか」と、やさしい声が降ってくる。それと同時に、額を温かい感触が掠めた。幼な子を慰めるような口づけだった。

「すこし……」
「十分だ」

 の言葉に、セテスが頷いた。
 鼻頭に落ちた唇が口元に迫るのを感じて、は目を閉じた。

 触れるだけの口づけが、啄むものに変わっていく。の唇の隙間を縫って、セテスの舌が入り込んでくる。角度を変えるたびに顎髭が擦れる感触が、くすぐったくも、愛おしい。
 セテスの手のひらが腹部を撫で、は既に服がはだけていることに気づいた。

 くるりと円を描くように、臍の周りをセテスの指がなぞる。その手が、肋骨の縁に触れながら、上へと伸びていく。

「ん……」

 ちゅう、と下唇を食んだその口は、首筋へと移る。舌が肌を這い、ぞくりとした感覚が背筋を這い上る。
 下乳の膨らみに沿って動いた手が、ひどく自然に背に回った。セテスが片手で、器用に下着の留め具を外してしまう。物理的な解放感を得るが、気持ちがそれに伴うことはなかった。は緊張を覚えて、身を強張らせる。

「あっ、ん」

 セテスの指が、ぐっと乳房に沈んだ。ぴく、と強張った指先に、セテスの髪の毛が絡んだ。傷つけないようには意識して手をゆるめるが、セテスの親指と人差し指が乳首を摘まんだ瞬間に、うなじに爪を立ててしまう。は慌てて手を離す。
 くっ、とセテスが喉の奥で低く笑って、吐息が首に触れる。

「大丈夫だ。しっかり掴まっていなさい」
「あ……はい…………」

 は消え入りそうな声で答え、セテスに導かれるまま首に両腕を絡める。
 
 いい子だ、とその声は、の耳穴に吹き込まれた。セテスの声は、いつものどこか事務的で冷たさを感じるものとは打って変わって、ひどく甘い。赤らんだ耳殻をやわい唇が食む。びくんとの身体に震えが走った。

「っは……ぅ、ん……」

 もう片方の耳の縁を、セテスの指が丁寧になぞりあげる。そうしながら、セテスの手は乳房を弄んでいる。重さを確かめるように上下に揺すり、気まぐれに柔肌に指を食い込ませる。
 ぷくりと立ち上がった乳首が誘うように揺れて、セテスの指が伸びた。親指の腹が尖りを押し潰す。

「あんっ」

 自分でも驚くほど甘ったるい声が漏れて、は咄嗟にセテスの肩へ唇を押し当てた。セテスの身体がほんのわずかに強張る。
 はっとして唇を離しかけたの耳に「あまり煽ってくれるな」と、呟きが落ちた。

「え……?」

 上体を起こしたセテスが、の背を支えて抱き寄せる。万歳させられ、服も下着もすべて取り払われてしまう。
 肌と肌が触れあって、はよりセテスの逞しい身体つきを意識する。対して、の身体はどこもかしこも柔らかくて、もちろん傷跡のひとつもない。
 何気なく、上腕へ指を這わせたところで、はセテスの眉間の皴に気づいた。

「あっ、し、失礼しました」

 引っ込めた手をセテスに捕らわれる。眉間にばかり気を取られていたが、その近くにある瞳の熱には息を呑んだ。落ち着いた深緑色の奥に、獰猛さが滲む。
 それが、瞼によって隠される。ぐ、と眉間の皴が一層深くなった。

「……余裕があるように見えるか? これでも、自制しているんだぞ」
「せ、セテス様?」

 セテスがゆるくかぶりを振る。
 目を丸くするばかりのを、寝台へと再び押し倒す。しかし、セテスの上体は起きたままで、じっと見下ろされたは慌てて両手を胸の前で交差させた。
 上半身は、もう何も身に着けていないのだ。

「あ、まり、見ないでください……」

 は恥ずかしさに、顔をわずかに背けた。

「隠さなくていい。君は綺麗だ」
「そんな……」

 セテスがの手を敷布に縫い付けてしまう。指が絡み合って、爪の先をセテスの指が撫でる。

「君は、自分の魅力に気づいていないだけだ。まったく、君とお近づきになりたいと些細な怪我で医務室を訪れようとする奴らを、私が何度追い払ったことか」
「セテス様が、そのようなことを?」
「……ああ。その甲斐あって、君に声をかけてくる不埒な奴らはいなくなったはずだ」

 思い返してみれば、ガルグ=マクに来た当初は、物珍しさもあったのか食事に誘われたこともあった気がする。けれどそれはすぐにぱたりと止んで、いまでは気さくに声をかけてくれるのは士官学校の生徒たちと、アイスナー親子くらいである。
 声をかけられないのは、マヌエラのような魅力がないからだと思っていた。

「……気がつきませんでした」
「君に知られまいとしていたからな。だが、もう隠さなくてもいいだろう? 私が、を、どれだけ想っているのか」

 どきり、と心臓が跳ねる。
 セテスの真摯な眼差しに射抜かれて、背筋が震えた。身体の芯が溶けていくような、甘い痺れが全身を走る。

 ちゅ、とセテスの唇がむき出しの胸へと落ちる。ちゅ、ちゅとやさしく肌を食みながら、その唇はすぐに乳首へとたどり着く。
 は見ていられずに、目を閉じた。ぎゅうと繋がった指に力が入ってしまう。
 ふっ、と笑った吐息が、ぷくりと立ち上がった乳首に触れるのを感じる。

 舌先がチロチロと突くように舐めたかと思えば、舌の表面で先端を押し潰す。

「ひゃ……っ」

 漏れ出た声は甲高く、悲鳴にも似ていた。
 「ふふ、素直な身体だ」とセテスが満足げに呟き、ちゅうと乳首に吸い付く。軽く歯を当てられると、鋭い刺激に身が跳ねて、震えた。

 いつの間にか、セテスの左手が離れて、の片手は敷布に投げ出されていた。それを認識して、は薄らと目を開ける。

「あっ……」

 セテスの手が向かう場所を予感して、は咄嗟に逞しい上腕を掴んだ。しかし、当たり前と言うべきか、セテスの手は止まらずに下腹部を撫でた。
 口に含んだ乳首を、舌で刺激することも忘れない。

「んっ、ああ……ッ」

 嬌声を抑えられず、は唇に手の甲を当てた。
 緊張に閉じようとするの太ももを左右に開きながら、セテスが口元に置かれた手のひらに口づける。

「声を聞かせてくれ」

 セテスの甘い声で懇願されては、は手を退けるほかない。
 そろ、とはセテスを窺い見る。
 を安心させるような柔和な笑みに反して、熱っぽい瞳には隠しきれない欲が滲んでいた。その不調和な様が、ひどく色っぽい。は無意識にごくりと喉を鳴らした。

 脚の付け根をゆるりと撫ぜた手が、下着の紐を解いた。はらりと布がめくれ落ちる。そのまま中心へと向かう手を止めたいと思うのに、はその先を期待してしまっている。

「あ……セテスさま、」

 掠れた声を出して震えた喉元に、セテスがなだめるように唇を掠めさせた。
 
「濡れているな」
「ああっ」

 指がそっと秘部を撫でただけだ。
 くん、と顎先が持ち上がって、喉がのけぞる。差し出すような形になった白い喉に、もう一度セテスの唇が触れて、今度はちゅっと音を立てて離れた。

「は、っア、ん、セテスさ、ま」

 じっと見つめられてることに気づいて、は恥ずかしさに睫毛を震わせながら、伏した。

 セテスの指が割れ目を上下し、零れる愛液を掬うような仕草をする。そうして、濡れた人差し指を秘部へと沈める。くちゅり、と聞こえた音が、の羞恥をさらに誘う。
 思わず、腰を引いて逃げてしまうが、セテスに覆いかぶさられて身動きが取れない。

「あっ、あ、ああっ」

 はしたないとわかっていても、唇から零れる声を止められない。
 は敷布を掴んでいた手をセテスの肩へと回して、縋った。爪は立てずとも、指先が小さく食い込む。そうでもしなければ、は自分を侵食する熱に、溶けてしまいそうな気がした。

「っあん!」

 膣壁をほぐすように動いてた指が、くっと曲げられる。指の腹が、上壁の少しざらついた部分を掠めた瞬間、の身体は跳ねた。

……」

 セテスの唇が、涙の滲む目尻に触れる。
 秘部に指を埋めたまま、親指で尖った陰核を押し潰す。びりびりとした甘い痺れが背筋を駆け抜けて、秘部がきゅっとセテスの指を締め付けた。奥から、とろりと愛液が溢れてくる。

 指がゆっくりと引き抜かれ、喪失を惜しむかのように肉壁がひくつく。太ももに感じていたセテスの熱が、秘部の入り口に添えられる。
 はっとして、はセテスを見た。

「セテス様」

 見つめ返してくるセテスの額には、汗が小さな玉となって滲んでいた。苦悶するかのような表情を浮かべたその顔は、の知る大司教の右腕ではなく、余裕をなくしたひとりの男だった。
 ぎゅう、と絡まりあう指先に力が込められる。
 セテスがぱくりとの唇を食べるように覆った。舌がねじ込むような強引さをもって、の口腔内に入ってくる。じゅっ、ときつく舌を吸われ「んぁ」と鼻にかかった吐息が漏れる。

 初めてではないにしろ、あまり経験のないに気遣ってくれているのだろう。口づけに意識が向いている間に、くぷりと男根の先端が秘部に沈む。

「っふ……!」

 押し広げられる圧迫感はあるものの、痛みはない。
 身丈があることから予想はついていたけれど、セテスの男根は、が思っていた以上に大きい。半分くらい入ったように感じるけれど、埋まっているのはまだ亀頭だけらしい。

「大丈夫か?」

 の身の強張りをじかに感じ取ってか、セテスが顔を覗き込んでくる。は頷いて、微笑みを返した。

「はい、平気です」
「そうか……」

 ほっとセテスの表情が緩んだ。それを見たもまた、身体から力が抜けた。
 そのおかげもあって、たっぷりと蜜を含んだ秘部は飲み込むように、セテス自身を奥へと受け入れていく。

「ああっ、あ……っア……!」

 男根が最奥まで届いて、は背を反らした。浮き上がる腰を、セテスの手が掴まえる。けれど、すぐに突き上げるような手荒な真似はせずに、の息が整うのを待ってくれる。
 ぐ、と身体の奥で、セテスの男根がゆっくりと蠢く。

「っは、あ、ぅん……セテスさまぁ……」

 の顔に口づけの雨を降らせて、甘えた声を漏らす唇をぺろりと舐める。は誘われるように、目の前の唇に己のそれを重ねた。
 もっと、と舌を伸ばすけれど、ほんとうにねだりたいのは口づけではなかった。無意識に腰が揺れる。

 セテスがの意図を汲んで、ゆっくりと律動を始める。ぴたりと根元まで膣壁を満たした男根は、ごりごりと擦れてあちこちを刺激する。
 の嬌声が、セテスの口へと消えていく。

 奥を突かれるたびに、腹の奥が熱く滾っていくような気がした。その感覚から逃れたいのか、そうではないのか、でさえわからずに腰が浮き上がる。

「んっン……ひ、あ……あっあっ……ああっ」
……はぁ、っ」

 セテスの顔がぼやけるのは近すぎるせいではない。の指を絡め取っていた手が、溢れた涙を拭った。

「愛している」

 身体の奥が溶け出していく。

「わたし、も──

 最後まで言い切ることができなかったのは、セテスが両手で腰を掴んで穿ったからだ。言葉にならない嬌声が、揺さぶりに合わせて零れ落ちる。
 セテスが身体を起こしたせいで、首に巻きついていたの手が落ちる。抱きついて縋りたかったが、の指はセテスの肩に引っかかるだけだった。与えられる快感に身体が震え、いまにも手が放り出されてしまいそうだった。

 ぽたりとの肌にセテスの汗が落ちる。
 、と切羽詰まった声が降って、それがの奥をさらに熱くさせる。

 の脚を抱え込んで、セテスがずんと深くまで自身を埋めた。子宮を潰されるような苦しさと共に、目が眩むほどの快感がを襲った。

「あっ、あ、あ! はっ、あ、もう……!」

 切れ切れの嬌声に涙声が混じる。
 それを聞いて、セテスが一層激しく腰を打ちつける。容赦なく攻め立てられて、はあっという間に登り詰める。

「あああッ、セテス、さ……ま……!」
……っ」

 最奥を男根に叩きつけられ、びくんとの四肢が強張る。
 達したの膣壁がきゅうううっと蠢き、セテスが辛そうに顔を歪めた。離すまいとする動きに逆らって、ずるりと男根が引き抜かれる。
 その動きにはもちろん、腹部に放たれた熱にさえ、の身体は震えて反応した。

「セテスさま……」

 の声は掠れていた。それに気づいて、セテスが眉尻を下げる。

「すまん。無理をさせたな」

 は静かに首を横に振る。
 腹の白濁液を拭おうとするセテスの手を止めて、はゆっくりと身を起こした。

「わたしがします。あの、セテス様……夢ではないと、ご確認できましたか?」
「もちろんだとも」

 セテスがふと、何かに気づいたような顔をする。
 不思議に首を傾げたの頬を、セテスの手がやさしく撫でた。そうして、セテスの唇が耳に寄せられる。

「夢心地ではあるがね」

 囁くその声は、笑いを含んでいた。






 閉じられた瞼の睫毛の先を見つめて、まだ隈はあるけれど顔色は幾分かよいな、と考える。まだ眠っていることをいいことに、はじっとセテスを見つめた。
 フォドラでは珍しい深緑色の髪が、整った顔立ちに神々しさを与えているような気がした。
 ぴくり、ときりりとした眉が動く。

「……そう熱心に見つめられると、起きるに起きられないな」
「せ、セテス様、」

 は慌てて顔を俯かせる。ふふ、とセテスが笑って、の額に口づけた。

「しかし、もう朝とは。惜しいな」

 そう言いながら、セテスがすっと身体を起こす。寝台に身を沈めたままののほうが、よほど名残惜しんでいる。

「身体は痛むか?」
「すこし。でも、このくらいなら平気です」

 差し出された手を借りて、起き上がる。
 こんなふうに、医務室で夜を明かすことがあるとは、想像もしていなかった。職場でいけないことをしてしまった気恥ずかしさと、名残惜しさを誤魔化すために、は笑った。

「マヌエラ先輩が来る前に、行かなければなりませんね」
「さて、マヌエラが今日来るかどうか」
「そ、そんなこと、おっしゃらないでください。マヌエラ先輩は素敵な女性です」

 身なりを整え、いつもの大司教補佐の顔になったセテスが、の肩に白衣を掛ける。

「そうだな。だが、私にとっては君のほうがよほど素敵で、魅力的な女性だ」

 顔に熱が集まるのがわかったが、セテスの真摯な視線から逃れられずに、は呆然と見つめ返した。いつもの気難しそうな顔とは一変して、セテスがまなじりをやさしく細める。

「その可愛い顔は、私以外に見せてくれるなよ」

 は思わず、頬をつねっていた。「夢じゃない」と、呟いたを見て、セテスが笑った。

ハトーヴ

(夢のようだというのなら、何度でも確認するといい)