マークスの呼び出しは、決して頻繁ではない。紅茶を淹れて話を聞くだけのときもあれば、マークスが眠りに落ちるまでただ傍にいるだけのこともある。はたまた、抱き潰される日もあった。
「あっ、あァ……!」
ぎゅう、と膣壁が収縮してマークスの二本の指を締めつける。
びくびくと震える膣内が弛緩したのを確認してから、マークスが動きを再開させた。マークスの指は無骨だが、ひどく丁寧に丹念に動いて、己では決して届かぬところに刺激をくれる。
今日は抱き潰される日なのだ、とノックした瞬間に引き摺り込まれるようにして入った室内で、唇を奪われたときからわかっていた。
もう何度達したかわからない秘部は、の愛液によってドロドロのグズグズで、マークスの指はふやけているかもしれなかった。それでも、はやめてと口にすることなど叶わない。
「っは、ん、ぅン」
ぐちゅり、と音を立てながらマークスの指が秘部を掻き回す。声を聞かせてくれ、との言葉があった以上、いくら恥ずかしくても口を押さえるわけにもいかない。
怒っている、のかもしれない。
眉間に皺が刻まれているのは常のことだ。ただ、今日はより一層その皺が深かったように思うし、言葉数も少ない。
寝台に仰向けに縫い付けられたからは、秘部に顔を埋めるマークスの顔など見えようもない。もっとも、灯りが絞られた室内ではひどく近づけなければ、互いの表情を確認できそうにもなかった。
膣内に指を埋め込んだまま、マークスの舌が大陰唇を這う。ぞわぞわとした感覚が腰から上ってくるようだった。意識しなければ、内腿でマークスを挟んでしまいそうだ。
「マークス、さま、ッああ」
ぐ、となかの指が手前に折り曲げられると同時に、マークスの舌先が陰核をつついた。強い刺激に思わず、腰を浮かせて引いてしまう。
「あっ……!?」
マークスの片手が太ももを掴んで、押さえつける。じゅるりとわざとらしく音を立てて、マークスが愛液を啜りあげる。
「は、恥ずかしい……っん、です………」
は堪らず、両手で顔を覆って小さく告げた。
マークスがおもむろに上体を起こした。指が引き抜かれる感覚に、は身体を震わせる。薄明かりの中、浮かび上がるマークスの肉体はまるで彫刻のように美しい。色香に気圧され、はとてもじゃないが直視できずに、手のひらの下で目を瞑る。
「恥じらう顔が見たい」
「え?」
手首をシーツに縫い付けられて、は赤面した顔を背けることも許されず、マークスの眼前に晒す他ない。
険しい顔をしたマークスにじっと見下ろされ、は落ち着かない気持ちになって瞳を伏せた。筋骨隆々とした肉体には、小さな汗の粒が浮かんでいる。逞しい胸板がぐっと近づいて、マークスが顔を寄せてくる。
「ここまで近づけば、暗くとも頬の赤みが見えるな」
マークスの右手がの頬に伸びる。「熱い」と、マークスがぽつりと呟きを落とした。
親指の腹が下唇をゆるく押して、の口を小さく開かせる。前歯に軽く押し当てられた指先が、その先へ侵入して内頬を擦り付ける。
「んぅ……」
「おまえはどこもかしこも熱くて、柔らかい」
マークスの手はすでに手首から離れていたが、はシーツの上から動かすことができなかった。親指と人差し指が、の舌を挟んで優しく擦る。
眉間の皺はいつもと変わりない。
目尻が、ほんのわずかに優しげに下がっているような気がした。
腹部を撫でたその手が、さらに下へと降りていく。秘部のぬかるみを確かめてから、亀頭がそこに触れる。愛液を纏うように何度か入り口を上下に擦って、マークスが先端を埋めた。
「っふ……!」
どれだけ濡れて解れていようと、挿入時の圧迫感は消えてはくれない。
口から指が引き抜かれ、代わりにマークスの唇が重なる。舌を絡めながらも、マークスの陰茎が奥へと進む感覚のほうへと意識が向いてしまう。だらしなく、唇端から涎が溢れて顎先まで伝い落ちる。
「は……蕩けきっているというのに、相変わらず、狭い……っ」
マークスの吐息が唇に触れる。ぼやけた視界の中、マークスの眉根がきつく寄せられているのがわかった。怒っているかどうかなんて、もはや判別できそうにない。
ぐ、と腰を掴まれて打ち付けられれば、目を開けていることも困難だった。
「あっ、あ、ッはあ」
の甲高い声が室内を満たすが、口を抑えることも耳を塞ぐこともできない。恥ずかさから、はますますきつく目を瞑る。
結合部がぐちゅぐちゅと音を立てる。
ごり、と抉るように膣壁を擦られて、はびくりと跳ねるように背を反らした。
「ひ……!」
ぞわぞわとした感覚がお腹の奥底から這い上がってくる。
抜けそうになるギリギリまで引かれた陰茎が、穿つように勢いをつけて最奥まで入ってくる。逃れることのできない官能が、弾ける。
「っやあ……あァあ、ッ……!」
爪先までピンと強張り、脈打つように膣内が収縮する。
マークスが息を堪えて動きを止めるが、の息が整う前に律動を再開させる。過ぎる官能に、は思わず身を捩った。
「逃さない」
マークスの低音が耳孔に吹き込まれる。が顎を反らすと、さらけ出された喉元にマークスの唇が吸い付いた。走った痛みがすぐに快楽に変わる。
「っは、ぁあ、ん……ふ、ぅっ……あ、ァ」
互いの身体が密着して汗が混じり合い、鼓動がどちらのものかわからなくなる。
ぐりぐりと先端を擦り付けるように、子宮口が押し潰される。は無意識にいやいやとかぶりを振った。
「マークスさま、わたし、わたし……!」
ふ、とマークスが笑むのが、肌を撫でるような吐息で感じる。ちゅ、ちゅと戯れのように触れては離れる唇が、乳房の先端へと辿り着く。
ははっと息を飲んで、マークスを見た。
「や……」
マークスが視線をあげた。暗がりに見えるその瞳の獰猛さに、は反射的に目を瞑る。
ぷくりと立ち上がった乳首が、マークスに噛みつかれるように口にされる。弓なりになるの背を、マークスの逞しい腕が抱き寄せ、陰茎は奥へと埋まっていく。
「ひ、あ、やア、また」
ぎゅ、とはマークスにしがみついて、びくびくと身体を震わせて達する。
「……」
「う、ァあ、んく、っあぁ!」
「っ、はあ……、」
悩ましげなマークスの顔が、涙で滲んでよく見えない。ただただ、与えられる快楽には喘ぐことしかできず、人形のように揺さぶられるがままだ。
ぐりっ、と最奥を抉った陰茎が引き抜かれ、マークスの熱が腹部を白く汚した。の意識もまた白んで、瞼を持ち上げることは叶わなかった。
「無理をさせたな」
申し訳なさそうに眉尻を下げたマークスの顔が、次第にはっきり見えるようになって、は驚きのあまり呆然と瞬きを繰り返す。
またマークスの腕の中で一夜を明かすことになるとは──青ざめればいいのか、赤らめればいいのかわからないまま、は反射的に誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべた。相手がジョーカーならば、ヘラヘラするなと叱責されていただろう。
マークスはといえば、ますます困ったように視線を下げた。
「おまえのことになると、加減が難しい」
「わたし、の……?」
も困惑して、眉を八の字にする。ゆっくりと互いに身体を起こす。ふと見下ろした身なりは申し訳程度に整えられており、マークスの手を煩わせてしまったと思うと申し訳が立たない。
「リョウマ王子に娼婦じみた真似をしている、と辱めを受けたと聞いた」
「しょ……」
あまりの衝撃に、の脳がうまく言葉を受け止め切れなかった。深く刻まれたマークスの眉間をしばし見つめて、は我に帰る。
「あ、ああ……いえ、確かに風紀が乱れるとお叱りを……もしかしなくても、ゼロからお聞きになられました?」
「そうか、やはり事実ではあるのだな。すまない、私の配慮が足りないばかりに、おまえがそういった目で見られてしまった」
「ま、マークス様! わたしに頭など下げてはいけません、どうか顔をあげ……」
あげられた顔が存外近く、は言葉を失う。
マークスの両手が肩を掴んで、じっとの顔を覗き込んだ。視線が逸らせない。
「この期に及んで、私はおまえを離せそうにない。レオンの元にすら、帰したくないと思うほどに」
「え……?」
すぐには理解が及ばず、数拍の間を置いてから、の頬がじわじわと熱を持つ。ふ、と小さく笑ったマークスの手が、頬を撫でる。
「を独占したいなどと、私は欲深いな」
何か言わなければと思うのに、の口は少しも動いてはくれなかった。心臓の音ばかりがドキドキと煩くて敵わない。
マークスが長い睫毛を伏せた。は反射的に目を瞑る。
「マークス兄さん、朝からごめん。もしかして、いる? 寝こけてるなら、叩き起こしてほしい」
はっ、とは飛び退いた。今ならどういう顔をすればいいのかわかる。頬の熱がさっと引いていく。
そんなを見て、マークスがくつくつと笑った。
「この話は、また日を改めてしよう。渡したいものもある」
立ち上がったマークスが、固まるを置いて扉を開けてしまう。「ああ、やっぱりここにいたんだ」と、これ見よがしにため息を吐くレオンに、は泣きたくなる。
すごすごと退室する際に見たマークスは、驚くほど穏やかな顔をしていた。