(拍手お礼SS「あゝ無情」続き)
が震える指先をブラウスのボタンにかける。「待て」と、制止をかければ、びくっと肩を跳ね上げてから石のように固まった。涙で濡れた瞳が窺うようにジョーカーを見上げる。
カムイの戯れに付き合わされているにすぎないとわかっていても、そこに同情を覚えないのは、己の興味が主人以外にはないからだろうか。脱げと指示したのはジョーカーだが、その覚束ない手つきからひどく恐慌状態であるのは一目瞭然であり、万が一にもカムイのお召し物を傷つけられては堪らない。
立ち尽くすにため息をついて、ジョーカーは首元に結ばれたリボンを解き、ボタンを外す。無駄にでかいせいで、胸元は窮屈そうにブラウスに押し込められているようだった。ジョーカーは躊躇うことなく、全てのボタンを外し終える。が耳まで真っ赤にしながら、顔をうつむかせた。
ジョーカーは構わずに、の手首を取ると腕を持ち上げて、ブラウスの袖をそうっと脱がせる。反対の手も同様にするが、は身じろぎひとつせずに、従順にジョーカーに従った。
いつもは甲冑とマントで隠れているあちこちが露わになっており、ブラウスひとつ脱いでしまえば、薄いキャミソールにガーターベルト、そこから繋がるオーバーソックスという、何とも心許ない格好になってしまう。ブラウスをハンガーにかける間も、が動くことはなかった。魔法で時でも止められたかのようだが、ぎゅっと拳が握られており、その身は細かく震えていた。
「おい」
苛立ちを隠さずに声をかければ、大袈裟なほどに身体を震わせ、が顔をあげた。不安に曇る顔は、これでもかというほどに赤い。
「てめぇの着替えはどこだ」
「あ……ご、ごめんなさい、カムイ様がお召しになってしまって」
「はあ?」
ということは、カムイは今メイド服に身を包み、キャッスル内を歩いているということか。
想像するだけで、目眩がするようだった。ジョーカーは眉間に皺を刻む。に非はないとわかっていても、苛立ちを彼女にぶつけてしまいそうになる。舌打ちをすれば、が身を竦ませた。
「も、申し訳ございません……」
声までも震わせるその様は、蛇に睨まれた蛙のようである。
ジョーカーは顎に手をやり、恐縮しきったを見下ろした。自分を前にすると竦みあがるのはいつものことだ。違うのは格好だけ──
再びうつむきかけたの顔を引っ掴む。不思議そうに瞬かれた瞳には涙が滲んでいる。こぼれ落ちそうな涙は、辛うじて目尻にとどまっている。
ため息をひとつ吐いて、ジョーカーはの背後へと手を伸ばし、扉の鍵をかけた。カチャリ、と小さな音がやけに響くようだった。
「気が変わった。カムイ様のお望み通り、くだらねぇ遊びに付き合ってやる」
「え……?」
「残念ながら、お湯が冷めてしまって紅茶は振る舞えませんので、特別な奉仕をさせていただきましょうか」
ジョーカーは口調を改め、固まったままのの頬を指先でやさしく撫ぜる。
「し、執事長」
「おや、執事長などとおっしゃらずに、ジョーカーとお呼びください」
が溢れんばかりに目を見開く。赤みを帯びていた頬から、血の気が引いていくようだった。が首を横に降る。「そ、そんな畏れ多いこと、わたしにはできません」先ほどよりも更に声を震わせ、ぎゅっと閉じられた瞳から涙粒が落ちた。
ジョーカーは頬に触れる指で、こぼれた涙を拭ってやる。
恐る恐るというふうに開かれた瞳は不安に満ち、ジョーカーを見つめた。
「お召し物が汚れては大変ですので、失礼いたします」
ジョーカーは跪き、の左足を持ち上げつま先を己の腿へと乗せた。ぎょっとしたが小さく悲鳴をあげるが、足先を固定されているせいで身動きはとれない。
ガーターベルトに指をかけると、ジョーカーは丁寧な手つきでオーバーソックスを脱がせていく。白い素足が露わになっていく。甲を撫でるように触れながら、オーバーソックスを足から抜き切った。
くす、とジョーカーは笑い、を見上げる。
青褪めたかと思った顔は、すでに熟れたトマトのように真っ赤になっていて、は両手でその顔を覆い隠している。
「さあ、次は反対の足をどうぞ」
「……っ」
ジョーカーはが逆らわないことを知っている。震える足がそっとジョーカーに差し出された。ジョーカーは笑みを深めて、より丁寧に右足からソックスを脱がせる。緊張のせいなのか、ひんやりと冷たい指先に唇を寄せる。「ひっ」と、が引きつった悲鳴をあげた。
「やっ、執事ちょ……汚いです、やめ」
「ジョーカー、と。あなたの身体に汚いところなどありません」
本気でそう思っているかのごとく、真面目な顔をして嘯けば、が狼狽する。
ジョーカーは内心で鼻で嗤いながら、ちゅっと音を立てて、つま先に口付ける。びくっと跳ねるような動きをした足を、手で支えると同時に押さえつける。
カムイにだってこんなことはしない。ジョーカーにとってカムイは、女性でありながらもそういった対象にはなり得ない、神聖な存在である。どれほど愛おしく大切に思っていても、邪なことを考えたことなど一度たりともない。
着替える前に身を清めていたのか、ふんわりと石鹸のにおいが香る。
ジョーカーはを見上げながら、右足の小指を口に含んだ。が鋭く息を呑む。爪の付け根から、指の間まで丹念に舌を這わせると、の足が小刻みに震えて力をなくしていくのがわかった。甲へと唇を移して、踝に軽く歯を立てる。
「あっ、や……!」
ぶるっ、との全身が震えた。情けなく眉毛を八の字にして、がジョーカーを見た。
「も、もうやめてください、」
ジョーカーはの足を床に戻し、立ち上がる。
がほっと安堵の息を吐いた。ジョーカーは目尻に溜まる涙を親指で拭ってやる。
「では、命令してください。そうしたら、やめて差し上げましょう」
「え?」
「ジョーカー、やめなさい。そうおっしゃればいいのです、簡単なことですよ」
が唇を結ぶ。戸惑いに揺れる瞳がジョーカーを見て、伏せられる。
「……できません」
可哀想などとは思わなかった。むしろ、ジョーカーにはがそう答えるほかないことが、わかっていた。うつむく顔を持ち上げることはせずに、ジョーカーはの耳元に唇を近づける。
びくりと揺れて、肩に力を入れるの頭部へ手を伸ばす。いつもカムイが身につけている髪飾りを外しながら、ジョーカーは耳穴に息を吹き込むようにしながら囁く。
「恨むのなら、己の軽率さと……今回ばかりはカムイ様を恨むほかありませんね」
身ぐるみをはがされたには、もはやカムイのお召し物は残っていない。
扉とジョーカーに挟まれたには、逃げ道などどこにもなければ、跳ね除けるような力もない。
「ん、ぅ……ッ」
比較的体温が低いはずの耳朶だが、食んだの耳がひどく熱を持っているのがわかる。キャミソールの隙間から手を差し込んで触れた腹部は、発熱しているかのように熱い。
「部屋が暑かったでしょうか?」
「や、っあ、耳……」
「ええ、耳もとてもお熱い」
ふっと息を吹きかけると、身震いしたが縋るようにジョーカーの服の裾を掴む。
すでにずいぶんと身体から力が抜けているようだ。相変わらず耳が弱い、とジョーカーは内心でほくそ笑む。やわらかい耳たぶを唇で挟んで、臍のくぼみを撫でる指先を肌に這わせて胸を覆う下着に触れる。指を引っ掛け下にずらせば、ぷるりと柔肉がこぼれる。
「っはあ……んっ……く、ぅん」
抵抗らしい抵抗もない。ジョーカーは背に手を回して、下着の留め具を外してしまう。ぎゅ、と裾を掴む手が引っ張るような動きを見せたが、ジョーカーにとってみればそんなものは抵抗のうちに入らない。
がふらつくようにして、背後の扉へ背を預けた。涙目がジョーカーを見つめる。
「立っていられないのでしたら、私の首に掴まって下さい」
「そ、んな……」
非難がましい視線だった。しかし、ジョーカーは気にも留めず、の両腕を万歳するように持ち上げてキャミソールと下着を脱がせる。そして、持ち上げた腕を己の首に回させる。
「私に体重を預けて下さい」
ジョーカーはやさしく微笑みながら、の脚を開かせた。下着の中央はじんわりと濡れている。
ジョーカーはそれを指摘することなく、手を乳房に伸ばした。
ん、と漏れた声を恥じ入るように、が唇を結ぶ。
やさしくくすぐるように指先を這わせてから、重量のあるやわらかな肉質に指を沈めて持ち上げる。指からこぼれる乳房が、その柔らかさ故に簡単に形を変える。しかしながら、張りがないわけではなく、ほどよく吸いつくような触り心地をしている。
そうして揉みしだくうちに、手のひらにまた違った感触を得る。薄く色づく胸の中心がぷくりと芯を持ち、何かを主張しているようだった。ジョーカーはわざとそこを掠めるだけにとどめ、愛撫を避けた。はあ、とが吐息をこぼす。
「あ……!」
ジョーカーは右手を下腹部へと伸ばし、下着の濡れた部分をやさしく撫で上げた。びく、と震えたがジョーカーの首に回した手に力を込める。しかし、逃れるように離れようとした動きを見逃さず、ジョーカーは左手で腰を抱き寄せた。
下着をわずかにずらし、濡れそぼったそこへと直接触れる。
「やあっ……執事長、いや……」
「本当にお嫌ですか? ならば、突き飛ばして下さって構いません。ですが、あなたのここは……私をこうもすんなりと受け入れてくださるようですね」
ぬるりと滑った中指は、秘部に飲み込まれるように沈んだ。下着に染みを作るほど濡れているそこは、熱くうねっていた。指一本だというのに、きゅうっときついくらいに締め付けてくる。
「ふ、あ……ッ」
中指をゆるく動かして、膣壁を押してなかを解す。「あっ、あ、っはあ」細切れの喘ぎ声と同調するように、の身体が痙攣するように細かく震える。
ジョーカーはふいにピタリと動きを止めて、の顔を見つめた。
ぎゅっと瞑られていた瞳が、ゆっくりと開いてジョーカーを捉える。羞恥に顔を赤く染め、潤んだ瞳はとろんと覇気がないに対し、思うところがないわけではなかったがジョーカーは微笑みを崩さない。
秘部に指を埋めたまま、ジョーカーは問いかける。
「続けてもよろしいですか?」
が息を飲んだ。しばしの間を待っても首を縦にも横にも振らなければ、いいともだめとも言わない。
ジョーカーもまた、何も言わないまま膣内に二本目の指を差し込んだ。
「あ、ん……ぅ、ふ……しつじ、ちょ………」
ぎゅ、と肩にの指が少しだけ食い込む。再び瞑られたの瞳から、ぽろりと涙が落ちた。ジョーカーはそれを舌先で舐め上げる。そうして、の肩口に顔を埋め、首筋に舌を這わす。
くちゅくちゅと淫猥な音が、室内に響く。
二本の指を折り曲げて、恥骨の裏あたりを擦るように刺激すれば、が背を反らした。親指の腹で陰核をやさしく押しつぶすと、きゅううとなかが狭まる。そこはもう蕩けきっていた。指がふやけそうだ。限界が近いのか、の声はもはや少しも抑えられていない。
カムイ様のマイルームでなんてことを、と己の冷静な部分がひどく責め立ててくるが、ジョーカーはそれに対してあえて目を瞑った。
「っぁあ、んン……!!」
ジョーカーは素早く唇を重ねて、嬌声を遮断する。声を抑えるついでに、ジョーカーはの唇を味わった。が拙く舌を絡めて応えてくる。
ひくひくと震える秘部から指を引き抜いて下着を脱がし切ると、ジョーカーはの右足を抱えて持ち上げた。大きく開かれたせいで秘部は丸見えだが、達したばかりのはされるがままである。
ジョーカーは硬く反り立つ自身を取り出し、ぬかるむ入口に先端を添える。確認の意味を込めて、ジョーカーはの顔を覗き込んだ。躊躇うようにの瞳が揺れる。
「あなたの望むままに」
が耐えきれないといったふうに、視線を伏せた。長い睫毛が細かく震える。
薄く開かれた唇が何かを言いかけたが、それが言葉になることはなかった。慌ただしい足音が聞こえたかと思えば、扉が叩かれる。背後の扉の振動が伝わって、の身体が緊張と恐怖でこわばるのがわかった。
「! ……居ないのか? くそっ、ジョーカーは?」
扉一枚隔てた向こうから聞こえるのは、タクミの声だった。「姉さんが、あんたの格好して、手料理振る舞うって……冗談じゃない!」苛立たしげな声とともに、再び扉を拳が叩きつけたようだった。
「……っ、」
驚いて跳ねた身体が意図せず、口づけるようにほんの一瞬だけ、互いの陰部が触れる。
まだ、そこにはタクミがいるとわかっていた。
動いたのはどちらかわからないが、先端がくちゅっと秘部にうずまる。ジョーカーは隙間をぴたりと塞ぐように唇を合わせて、そのままゆっくりと挿入する。
体勢的に、それほど奥までは届かない。浅いところでゆるく抜き差しするだけの動きだが、が身悶えするように身体をくねらせ、ぴくりとつま先を跳ね上げる。ジョーカーが唇を離すと、が大きく息を吸い込んだ。
「いけないお方ですね」
ジョーカーは目を細め、小さな声で囁く。
の手がジョーカーの頬に触れた。濡れた瞳が、挑むようにジョーカーを真っ直ぐ見つめる。
「ジョーカー」
の唇が消えそうな声を紡ぐ。
「いつもの、ジョーカー様に、戻って」
ジョーカーは思わず虚をつかれる。すぐに目を伏せたがそれに気づくことはなかったようだ。
「ああもう、誰が姉さんを止めるんだよ……」と、途方にくれるタクミの声が遠ざかっていく。ジョーカーは抜かりなくそれを確認する。
頬に触れたままのの手首を掴んだジョーカーは、それを口元に持っていって手のひらにキスを落とす。の視線がそろりと窺うようにジョーカーを見上げた。自然と口角が上がるが、手で隠れてには見えないだろう。
「動くぞ」
ジョーカーは短く告げると、の手を解放して尻肉を掴んで腰を打ちつけた。動かぬ間も震えるようにひくついていた膣壁が、男根に絡みついていくる。
顎を反らしたの頭が扉にぶつかりそうになり、ジョーカーは咄嗟に抱き寄せる。
「ひゃ、うっ」
の柔らかい乳房が、ジョーカーの胸元でつぶれる。より密着した体勢で、より深くまで挿入されたが、ふいの刺激に悲鳴じみた嬌声をあげる。同時に、一層狭まる膣内にジョーカーは小さく息を詰めた。
「おい、締めすぎだ……っ」
「ご、めなさ……あ、ァ、……っん!」
がジョーカーにしがみつき、びくびくと身体を震わせる。ジョーカーはため息をついて、一度自身を引き抜くとの身体を反転させた。扉に向かって手をついたの腰を掴み、入口に男根を充てがう。
「扉の向こうにタクミ王子がいて、興奮したか?」
「や……そんなこと、言わないでくださ……」
くぷ、と先端が秘壁を押し開く。
の脚はがくがくと震えていて、ジョーカーの支えがなければ今にも崩れ落ちそうだった。振り向いていたが、うなだれるように顔を伏せる。
「いやらしい眺めだな」
浮き上がる肩甲骨に唇を落とし、ジョーカーはの腰を両手で固定して、一気に奥まで挿入した。先ほどの体位では届かなかった子宮口を、ぐりと押しつぶすような感触がする。
「んッ、あ、だめ、深……あアっ」
何度か奥を突くだけで、があっけなく達する。ひくつく膣壁が搾り取るようにうごめいている。
ジョーカーは震えるの身体を押さえつけ、そのまま抽挿運動を速めた。高まる射精感を堪えることなく吐き出す。がくりとが膝を折るので、ジョーカーは手を回して支えてやる。
はからずも、むにゅりと乳房が手のひらに収まる。
が振り向く。恥ずかしそうに目を伏せて「キスして、欲しいです……」と、蚊が鳴くような声で告げた。
どんな仕打ちをされても口づけ一つで頬を染めるが愚かしく、だがそれと同時に愛らしくもあり、ジョーカーは苦笑を漏らし望み通りキスしてやる。唇を離すと、が満足そうに小さく笑った。
「……ちょろ過ぎる」
「え?」
が目を丸くした。
「あっ、すみません、お待たせしてしまって」
温泉から上がったの頬はほんのりと赤い。
いつものメイド服を身につけた姿に、ジョーカーは安堵感を覚える。主人に対しては意識したこともなかったが、カムイのあの格好はあまりに際どく、のように肉感的な身体が纏うと蠱惑的過ぎた。
ジョーカーは不躾に、上から下までを見やる。「な、何か変ですか?」と、が恥ずかしそうに頭の髪留めを手で押さえた。
メイド服ではそれほど胸の大きさも強調されていないのかもしれない。
顎に指先を添えて、ジョーカーはふむと一人納得する。がなおも不思議そうに瞳を瞬き、首を傾げている。
「お前は使用人がよく似合う」
「ど、どういう意味ですか? 勿論、カムイ様の代わりなんて、おこがましいに程はありますけど……」
貶されたと思ったのか、が不服そうに小さく唇を尖らせる。ジョーカーはふ、と笑うと突き出された唇を掠めとるように口づけた。の顔がぽぽぽ、と火がつくように真っ赤になる。
「なんだ。またキスをせがまれたと思ったが、違ったか?」
「な、な、な……」
「意味不明な言葉の羅列はいらん。早く食堂に行くぞ、タクミ王子がお冠だ」
両手で唇を押さえて立ち尽くすを置いて、ジョーカーは歩き出す。「ま、待ってください、執事長!」と、慌ててが後をついてくる。
ジョーカーは振り向かぬまま、口角を上げた。