カムイ様には誰も逆らうことができない。
ご兄弟ですらも、文句や苦言を呈したとしても、最終的には「仕方ないな」と言ってすべてを許してしまう。そういうお方だった。だからこそ、あまりに突拍子もない思い付きだとしても、それを止めることなんてできないのだ。
「カムイ様……」
わたしの不安と心配をよそに、カムイ様は上機嫌だった。
それもそのはず、彼女は突然の思い付き、もとい荒唐無稽な提案が素晴らしいものであると信じて疑わないからだ。
ふんふんと鼻歌をうたいながら、カムイ様はいつも身に着けている服からメイド服に着替えて、そうしてカムイ様のお召し物をこともあろうかわたしに着せる。もはや泣きたい気分であるということは、カムイ様には絶対に悟られてはいけない。
「あら? ちょっと胸元がきついですかね……」
「い、いえ、問題ありません」
「うふふ、カミラ姉さんには負けますが、豊満ですものね」とカムイ様が悪戯っぽく笑いながら、首元のリボンを結んでくださる。
うすうす気づいてはいたのだが、カムイ様のお召し物は、甲冑を脱いでしまうと、中々に際どい露出をしている。いや、脱がずともこの内腿の露出は変わりがない──腰元を覆う布がほとんどないというのに、カムイ様は何故堂々としていられるのだろう。
カムイ様は相変わらず鼻歌をうたって、最後にわたしの髪留めを外して、代わりにカムイ様の髪飾りを付けてくださった。
「それじゃあ、そろそろジョーカーさんが来ると思いますので、私は行きますね」
「か、カムイ様、ほんとうになさるのですか?」
「勿論です! ジョーカーさんの反応が楽しみですね!」
スキップをするような軽やかさでカムイ様がマイルームを後にする。執事長が間もなくここへやってくると思うと、わたしの身体は恐怖に竦んだ。執事長の反応なんて容易に想像できる。
どう言いわけしたって、この状況をあの方が許すはずがないのだ。
「カムイ様、ジョーカーです」
おずおずと扉を開ければ、執事長の目が一瞬見開かれたのち、その顔には輝かしい笑みが浮かんだ。勢いよく扉が開け放たれ、マイルームにカムイ様がいないことを確認して、執事長の手はわたしの顔を引っ掴んだ。
「今すぐカムイ様のお召し物を脱げ」
笑顔を張り付けたジョーカー様の額に、青筋を見つけたわたしは、泣きたくなった。