はっ、と喘ぐように吐息が漏れた。ベッドに仰向けになったが唖然として天井を見つめていたが、すぐに状況を理解したのか、眉をひそめた。まるく見開かれた瞳は、すでにいつもの冷静さを取り戻している。
対してケントは、毒に苛まれるような気分で、を組み敷いている。
すぐに退かなければ、謝らなければ、と頭では考えるのに身体はすこしも動いてくれなかった。
「……ケント?」
静かなの声が耳を打った。「どうしたんですか」と、紡がれるその言葉は、躊躇いや戸惑いを孕んでいなかった。純粋に、いつもと様子の違うケントを心配している、ようにケントには聞こえた。
男として意識されていないのでは──
だから、こんな日の沈んだ時間に、いくら相談事があるからと言って気安く訪ねはしないだろう。仲間だが、男女である。ケントは無意識に眉間にしわを寄せる。なんてことを考えているのだ、と内心で己を諌めるが、なおも身体は動かずにを組み敷いたままだ。
「さん、」
そう呼んだ名は、ずいぶんと辛そうに響いた。が小さく息をのむ。すこしだけ眉尻を下げて、が瞳を瞬いた。
「気分が優れないのですか?」
「……違います」
「あの、ケント……っん、」
無防備な首筋に唇を触れれば、がわずかに声を上げて身をよじった。ケントは全身がかっと燃えるような感覚を覚える。
このひとがほしい。
理性のかたまりのような男が、ただ欲望に支配される。
「すみません、さん。もう……我慢できそうに、ありません」
え、と薄く開かれた唇を己のそれで塞ぎ、あまつさえ口内に舌で蹂躙する。
の小さな抵抗が、よけいにケントの欲を煽った。「ん、っ、ケン、」くぐもった声にケントは薄目を開けて、の表情を確認する。ぎゅっと固く目を閉じたその顔は、熟れたトマトのように赤い。ケントはガツンとなにかに殴られたような衝撃を受けた。
はあ、と唇からこぼれた吐息は、熱を孕んでいた。ケントは、もう自分を止めることができないことを悟った。貪ったの唇が唾液にまみれている。ケントはその唇に唾液をすり込むように、親指を這わせる。
「これでは、セインのことを言えないな……」
ケントは自嘲してつぶやく。の唇が震えるように動いた。
「ケント」
もう冷静な軍師の顔はそこにはない。ケントはつられるようにして、遅ればせながらも頬を紅潮させた。今さらになってどっと汗が湧き出てくる。
一瞬だけ躊躇いを見せたケントを叱咤するように、の腕がケントの首に絡みついた。
あ、と思う間もなく引き寄せられたケントは、に唇を奪われる。
思考が停止する──のち、はっとしてケントは飛び退くように身を起こした。がじっとケントを見つめ、それから小さく笑った。「ケントが悪いんですよ」と、そのみだらに濡れた唇は言う。
「我慢していたのは、わたしのほう、かもしれませんね」
いたずらっ子のように目を細めるその仕草に、ケントは無意識にごくりと喉を鳴らした。す、との上に影が落ちる。ケントは再びに覆いかぶさると、赤みを帯びる耳へと口を寄せた。
「愛しています、さん」
わたしもです、と小さな声が返ってくる。
あふれるほどのこの想いを、止めるものも咎めるものもいない。ケントは言い表せないほどの幸せに、胸を打ち震わせた。
「あなたがほしい」
理性を呼び戻す必要も、ない。