眩しいのは、純白の礼服のせいだけではないかもしれなかった。
思わず目を細める。エリウッドのすらりとした立ち姿はいかにも貴族然としていて、ともに戦場を駆けていたとは夢にも思わないほどだ。見慣れぬ姿に、は上から下まで見つめてしまうが、それに悪い感情は含んでいなかった。
「やっぱり似合わないかな。儀礼用の服は、堅苦しくて苦手だよ……」
エリウッドが気恥ずかしそうに苦笑して、きっちりと閉められた襟元を指先でくつろげる。は目を丸くしたのち、くすりと小さく笑った。
「よくお似合いですよ」
そうかな、とエリウッドが表情をやわらげる。見上げたその顔は、以前よりも精悍さが増しているし、背丈も伸びたようだった。出会った頃は少年と言って差し支えなかったが、今では青年と言ったほうがいいだろう。
戦いの終結から一年が経っていた。
それは長いようで、忙しなかったせいかあっという間に過ぎてしまったように感じる。
エリウッドが苦手な礼服を身にまとっている理由を思い、は背筋を正した。彼はこの一年で外見だけでなく、内面も成長している。
「いよいよですね」
「ああ……やっと決心した。僕は、父の跡を継いでフェレ候になる」
ふわ、とエリウッドの白い外套が風にはためく。内側の赤い布地がはっとするほど鮮やかだ。
「今の僕につとまるかどうかわからないけど、精一杯、この地に住む人々のため尽くすつもりだ」
きっと、彼はよい領主になる。それは優秀な軍師でなくともわかることだった。
エリウッドの真摯な視線がに向いて、一瞬息が詰まる。戦いの最中に何度も見た真剣な顔、真っすぐな眼差し、そして名を呼ぶその声──「、」エリウッドの唇の動きから目が離せない。
「きみは……どうしても、行ってしまうんだな」
そんなふうに言うのは、ずるい。
は慌てて目を逸らした。隠した本音が漏れ出ないように、伝わらないように、慎重に取り繕わなければならない。の意思に反して唇が戦慄いて、一度ぐっと結ばざるを得なかった。
「」
辛うじて「はい」と答えた声は掠れていた。
「行かないでくれ、と言ったら、きみを困らせるかな」
やさしい笑みを浮かべるエリウッドの眉尻が下がっている。はそれを目視して、エリウッド以上に眉を八の字にしてしまう。「困ります」と、情けなくも震える声が告げた。
「ごめん。思った以上に、僕は諦めが悪いな……」
が口を開くより早く、エリウッドの腕が伸びた。どこまでもやさしい力で抱きすくめられる。抵抗すればすぐに解けるような抱擁だった。このまま縋ってしまいたい衝動を抑えて、はきつく目を閉じた。
鼓動が重なる。
頭の中でおべっかが並ぶ。いくつもの文字列は、ひとつとして言葉にならない。
自分は彼に相応しくない。鼻からわかっていることだった。立場も人柄もなにもかもが違い過ぎて、彼はあまりに眩しい。こんな清廉潔白なひとに触れてはいけない。
戦の中でしか生きられない。誰かの命を奪うことを生業とする。ああ、なんて狡猾な──
「きみが好きだ」
中庭に差し込む陽射しを受けて、エリウッドの姿は神々しく輝くようだった。エリウッドの指先がひどくやさしい仕草で、の目尻に浮かぶ涙を拭った。
そうして、は、もう逃れるすべをなくしたことに気がつく。