風邪で寝込むなんて最悪としか言いようがないが、今日に限ってはまんざらでもないと思ってしまう。優しく前髪をかき分け、ひやりとした手が額に触れた。心地よさに抗い、ピンは重い瞼を気合で押し上げる。「まだ熱、高いですね…」呟きを落とすの心配そうな顔をぼんやりと見つめる。
 そのまま視線を辺りへと移せば、自分の部屋とは思えないほど綺麗に片づけられていることに気付く。頭は重く身体もだるいが、ピンはのそりと身体を起こした。

「一市さん、水分取れますか?」

 さっと身体を支えたがスポーツドリンクを用意している。「おう」と、答えたピンの声は寝起きのせいか、はたまた風邪のせいか掠れていた。

「口移しがいい」

 熱に侵され欲望のままに口にすれば、が困惑と羞恥で固まった。ピンは目を瞑って「ん」と、唇を突き出す。数秒の間があって、どうせ無理だろうと踏んだピンは薄目を開ける。しかし、予想に反しての顔が間近に迫っていた。
 の口腔で少しばかりぬるくなったスポーツドリンクは甘みが強い気がした。離れていこうとしたのうなじを右手で押さえ、ピンは噛みつくように唇を再び重ねる。

「っ……!」

 びく、と震えた身体から次第に力が抜けていくのがわかる。逃げる舌を捉えて絡みつき、吸い上げる。つるりとした歯を舌先でなぞり上げ、悪戯に唇を食む。次第に、ピンの高い体温が移っていくような気がした。

「ん、ぅ……っ」

 隙間から漏れたの声は、ピンの気分をひどく良くした。その上、躊躇いながらもが口づけに応えたため、ピンは調子に乗って彼女を布団に押し倒す。
 の手がピンの背を軽く叩いた。
 組み敷いたまま、ピンはわずかに距離を離しての顔を見つめる。頬はもとより、首元まで赤らめたが、潤んだ瞳でピンを睨む。これではどちらが熱を出しているのかわからない。

「だめですよ、こんな……ちゃんと寝てください」
「やだね」
「一市さんは病人ですよ」

 が少しばかり怒ったように言った。しかし、そんなものは屁でもない。恐れるに足らない。大体、寝すぎてもう眼が冴えてしまった。
 ピンはの言い分を無視して、ほんのりと赤く色づく首筋に唇を寄せた。

「あっ……!」

 甲高い声を上げたが慌てて手のひらで口を押さえた。「や、一市さん……」泣き出しそうな声で囁いて、の手がピンの服をぎゅっと握りしめた。心配しているのだろう。そんなことは百も承知である。しかし、それと同時に、いけないと思いながら期待していることもピンは知っている。
 ピンは服を捲り上げ、の腹部に手を這わせながら、首筋を舐め上げる。の身体が震える。

「は……っ、や、一市さんの舌、あつい……」

 ふ、とピンは小さく笑う。その吐息にすら反応して、がわずかに身を捩った。

「おーおー、やる気十分だな」
「や、やめてください……」

 にやりと口角を上げて顔を覗き込めば、が消え入りそうな声で告げて真っ赤な顔を背けた。赤くなった耳が眼前に晒され、ピンは誘われるようにそこへ唇を落とした。
 耳朶を食み、耳の凸凹に舌を這わせる。ぴくっ、とが身体を跳ねさせ、服を握る手に力が籠る。その反応を楽しみながら、ピンはねっとりと舌先で耳を執拗に愛撫する。「や、っぁ、ア……」の声が、熱に浮かされたピンの脳みそにダイレクトに響いて、全身が溶けていくような熱さを覚える。

「ほら、ここも熱で大変なことになってるぞ」
「っ……」
ちゃん、助けて~」

 わざとおどけながら、ピンはの手を股間へと導いた。
 が赤い顔をさらに真っ赤にして、はっと息を呑む。ほんとうは、すぐにでもこの熱を放ちたいのだが──ふう、とピンは息を吐いて、前髪をかき上げる。青い十代のようにがっつくわけにもいくまい。それに、何度身体を重ねても、の初々しさは抜けきらない。

 狼狽えるように視線を彷徨わせたが、力なくピンを見つめる。すり、との意思で手のひらがそこを撫で上げた。思わぬ刺激を受けて、ピンは奥歯を噛みしめた。

「……一市さんの、すきにしてください…………」

 吐息のような声が告げた。震える唇に噛みつきたくなるのを堪えて、ピンはもう一度深く息を吐きだした。

「すきに、ねぇ……」

 が恥ずかしそうに目を伏せる。その逡巡は、一瞬だったのかもしれないし、数秒だったのかもしれない。果たして、素早く避妊具を装着したピンは言われた通りに彼女をあまり気遣うことなく、の下着を取り払って足を割る。
 少しだけ抵抗するようなそぶりを見せたが、一応それ以上拒まないのを確認して、ピンはの秘部に指を伸ばした。「っふ、ぅ」が控えめに声を漏らす。くちゅ、と小さな水音が鼓膜に張り付くようだった。

「あ、……はっ……一市さん……っ」

 の手がピンの首へと回る。唇を重ねながら、ピンはの入り口に自身を宛がう。ほんのわずかに、の身体が強張るのを感じた。

「お言葉に甘えて、すきにさせてもらうぞ」

 こく、とが頷くのをほとんど見ないまま、ピンは彼女の中へと押し入った。

「ああっ……!」

 あまり解していないせいで押し返すような圧迫感があった。「きっつ……」思わず、ピンは眉根を寄せて呟くが、そのままの最奥を貫く。
 くん、とが顎を反らして苦し気に喘いだ。
 ぴたりと身体をくっつけると、あれだけひんやりと心地よいと思っていたのに、いつの間にか火照ったの身体は己と同じような熱を孕んでいた。もはやどちらの体温かわからないくらい、肌が触れ合う部分が混ざり合って、溶け合うようだった。

「っはあ……、ん、一市さ……ァんっ!」

 一息ついて、ピンは律動を始めた。
 邪魔な服を取り払い、あらわになった乳房を揉みしだく。やわらかな脂肪はピンの手のひらで形を変える。きゅっと乳首を摘み上げれば、それに反応するように膣内が蠢いた。

「あぁん!」

 ひときわ大きな嬌声が上がって、が恥ずかしそうに口元を手で覆った。

「ご、ごめんなさ……っひ、あァ……!」

 細い腰を掴んで、ガツガツと責め立てれば、が言葉を途切れさせて喘ぐ。
 ピンの性急な動きに耐えきれず、がすぐに白旗を上げた。「や、あ、もう……!」きゅうううっと狭まる膣内に、ピンは一度動きを止める。の身体がビクビクと跳ね、動きに合わせて乳房がいやらしく揺れた。
 いつもならば、執拗に言葉で攻めてやるところだが、いまのピンには余裕がなかった。

「はっ、っぁ、ふっ……っん!」

 の息が整わぬ間に、ピンは動きを再開させる。ぽた、と額から落ちた汗がの肌で弾ける。
 辛そうにしながらも、がいやがるそぶりは一切なかった。必死にピンの首に縋りついて、口づけを求めるに、どうしようもない愛しさが込みあげる。

 もうそれ以上奥へは進めないとわかっていながら、ピンは子宮口を押し上げるようにして腰を打ちつける。の膣内がピン自身でいっぱいになるのがわかる。ひくひくと蠢くそこが、の限界が近いことを知らせている。
 潤んだ瞳がピンを見つめた。

「あっ、ああ、はァ……っ!」
「っく……」

 が達するのとほぼ同時に、ピンは彼女の最奥を抉るようにして熱を放った。





 やかましいチャイムの音に目が覚める。べたつく身体に不快感を覚えながらも、ピンはだいぶ身体が軽くなっていることに気付く。傍にあったぬるいスポーツドリンクを飲み干すと、生き返るような心地がした。
 チャイムが再び鳴り響いて、ピンは苛立ちながらドアを開けた。

「うるせーな!」

 勢いよく開け放ったドアの前には、己が担任を務める生徒たちがいた。よく見知った面々に、ピンは既視感を覚える。

「なんだ、意外と元気そうじゃん」
「せっかくお見舞いに来てあげたのに、うるさいって……」
「……あれ? でも、お部屋片付いてますね……?」

 黒沼が不思議そうに首を傾げる。それにつられるようにして、風早と吉田が部屋の中を覗き込んで「本当だ」と声を重ねて呟いた。


「ん……一市さん……?」


 先ほどまで嬌声を紡いでいたせいだろうか。少しだけかさついた声は色っぽく響いて、小さく聞こえたの呟きにピンは素早くドアを閉めた。

「あっ!」
「見舞いは間に合ってる。つーことで、お前ら帰れ」

 見えないとわかっていながら、ピンは犬を追い払うように手を振った。

「ちょっと……!」
「えっ、てか今のちゃんじゃなかった?」
「ちづ、声でかい」
ちゃん?」
「あー……まあ、龍の兄ちゃんの幼馴染……」

 各々の声がうるさく聞こえていたが、ピンは一切合切無視して、の元へと戻った。きょとんとした顔でがピンを見上げる。

「もしかして、生徒さん?」
「気にすんな」
「お見舞いに来てくれたんじゃ……あれ、千鶴ちゃんと龍の声……」
「気にすんな!」

 ピンは同じ言葉を放って、の額を小突いた。が指先で額をさすりながら、くすりと笑う。

「熱、下がったみたいですね」
「……おう、おかげでな」

 よかった、とふにゃりと笑うあどけないその顔に、治まったはずの熱がくすぶってピンは唇を寄せた。本当に、今日ばかりはまんざらでもない──鳴り響くチャイムと、ドンドンと扉を叩く音さえ聞こえなければ。

「うるせー! 帰れ帰れっ!」

 ドアに向かって声を放つ。しかし、しばらく音は止まず、が小さく声を上げて笑った。「生徒に好かれる先生って、素敵ですね」と、の褒め言葉がもらえたことだけは、うるさいあいつらに感謝してもいいかもしれなかった。

(邪魔者はとっとと退散!)