入れよ、と言った相澤の顔は、それなりに酒を飲んだはずだがいつもとすこしも変って見えない。はすでに酔いが回り始めているのを感じながら、開けてもらったドアから遠慮がちに室内へ入る。「お邪魔します」その小さな声はかすかに震えた。
もとより、酒の力を借りなければ、相澤のマンションに立ち入ることなどできないだろう。
「まだ飲むか? 缶ビールならあったと思うが」
相澤が首元の捕縛武器である布を取りながら、に声をかける。
あらわになった喉仏を見つめたは、意識的に肩へと視線を向けた。細身の体躯だが、プロヒーローとして肉弾戦もこなすのだから、しっかりと筋肉がついているのがわかる。普段は見ることのできない姿に、優越感や期待、不安が入り交じった、よくわからない感情が沸き上がる。
にや、とふいに相澤の唇がゆがんだ。
「それとも、シャワーを浴びるか?」
リビングの入り口で立ち尽くすは、相澤の視線を受けてたじろいだ。「そのつもりで来たんだろ」にべもない言い方に、は返す言葉もなく、とぼとぼと相澤へ近づいていく。
「回りくどいのは、合理的じゃないからな」
唖然とした思いが、それもそうかもしれないと納得するに至った。酔いの回った頭で考えることは、ほんとうに禄でもない。
「そう、ですね。じゃあ、シャワーをお借りします」
相澤がなにか言いたげに眉をひそめたが、それは見間違いかと思うほど一瞬で、すぐに風呂場へ案内してくれる。は脱衣所のシャワードレッサーで、自分の顔を確認した。化粧の上からでもほんのりと頬が上気しているのがわかる。
こんな風になれるだなんて、想像したこともなかった。
は高鳴る鼓動を押さえて、シャワーを浴びる。ぼんやりと化粧を落とす道具がない、と思った。
風呂場を出ると、綺麗にたたまれた着替えが置かれていた。
ぼさぼさの頭に無精ひげ、また寝袋でどこでもいつでも寝るようなひとだが、意外と真面目で細かいところもある。はくすりと笑みをこぼした。
用意されたスウェットに袖を通すと、思ったよりもぶかぶかで裾はお尻まで隠してくれた。は下着をつけるか迷った末に、合理性を考えたうえで羞恥が勝り、身に着けるに至った。
「お先に上がりました……」
リビングに出ると、ソファに座っていた相澤が視線を上げる。「適当に過ごしてろ」相澤が立ち上がって風呂場に向かう。すれ違いざまに、相澤の手がぽんと頭を軽く撫でた。
「言っておくが、部屋をあさるなよ」
「そ、そんなことしません」
くく、と笑って相澤が脱衣所に入っていく。
は相澤が触れた頭部に触れて、熱を帯びる頬を押さえた。
相澤が座っていたソファに腰かけ、はそっと辺りを見回す。
ものが少ない。整理整頓がしっかりなされていて、無駄がないような部屋は、どこか無機質だ。「合理主義だから、ものがないのかな」は小首をかしげて呟く。寝袋で寝る習慣のある相澤がこの部屋に帰るのは、あまりないのだろうか。
「あ……」
脱衣所から出てきた相澤の姿には咄嗟に目を逸らした。
上半身が惜しげもなくあらわになっている。タオルドライのみで乾かされた髪からぽたりと落ちた水滴が、筋肉の上を滑り落ちていく様がやけに色っぽい。
「どうした、酔いがさめたか?」
の緊張を悟って、相澤が笑って言った。
「そんなにすぐにはさめませんよ。相澤先生は、お酒強いんですね」
「……まぁ、お前よりは」
酔いがさめたのなら、きっと部屋を飛び出していることだろう。
相澤に近くで見下され、はうつむいた。どこを見ればいいのかわからない。そう思っていると、ソファの背に相澤の手が伸びた。ぐっと近づいた距離に心臓がうるさいほどドキドキしている。
くい、と顎に指がかけられて、上を向かされる。は否応なしに相澤を見た。
「せ、せんせ」
唇が触れて、言葉が途切れる。「悪いが」相澤が数センチ唇を離して言葉を紡ぐ。吐息が触れて、は恥ずかしさに目を伏せる。
「もう、お前の先生じゃないんでな」
あ、と思う間もなく、の身体は相澤に抱えられ、ベッドへと運ばれる。綺麗に整えられたシーツは冷たい。ベッドサイドのオレンジ色の明かりがぼんやりと相澤の姿を浮かび上がらせる。
「っ」
スウェットをめくりあげられ、は息をのんだ。可愛い下着だな、とぽつりと呟かれた言葉に、どうしようもなく頬に熱が集まっていく。勝負下着を選んだつもりだったが、趣味じゃなかったのだろうか。あまりに年上なので、正直よくわからない。
相澤の手が躊躇いなく胸に伸びる。びく、と身体が勝手に大袈裟に跳ねた。
「」
はあ、と相澤が小さくため息を吐く。
「相澤先生……」
「……」
「あ、えっと、相澤さん……」
は呼びなれない敬称に気恥ずかしさを覚える。相澤があからさまに目を逸らした。
「先生って呼ばれると、妙な背徳感がな……まあいい、やめるなら今しかないが、いいんだな」
相澤に顔をのぞき込まれ、は小さく頷いた。「相澤さんも言ったじゃないですか、そのつもりで来たんです」はっきり言うつもりが、恥ずかしさでどうしてもささやくような声になってしまった。
ふっ、と相澤の口元が緩んだ。
「なら、いい」
唇が重なる。濡れた相澤の髪が頬に触れて、冷たい。無精ひげがちくちくする。
ぬるりとした舌が唇を割って入り、は思わず驚いて目を開けた。相澤の閉じた瞳がすぐそこにある。──個性を持つ、とくべつな瞳。
は慌てて目をつぶる。ぎこちなく、は応えるように舌を伸ばした。
「っふ、……ん、……んん」
相澤の舌が絡まり、何度も角度を変えて唇が重なるうち、は自然と呼吸を弾ませていた。「っ、はっ……ぅ、ん……」頭の芯がしびれるような、身体が溶けていくような感覚がを襲う。こんなキスはしらない。
ふに、とブラジャー越しに相澤の手が胸を揉んだ。
「んん……!」
は咄嗟にシーツをぎゅっと掴んだ。そうしなければ、相澤の手を掴んで止めてしまいそうだった。
わずかにブラジャーをずらされ、乳首が丸見えになる。ぷくりとしたそれを、相澤の指がやさしく摘み、転がすように動く。キスに応えながらも、の意識が胸への刺激へと移っていく。固く尖り始めた先端が親指の腹でつぶされ、びくりと身体が跳ねた。
「っあ……」
唇が離れる。相澤に反応を見るように見つめられ、はさっと目を伏せた。「ずいぶん、初心だな」からかうように言われるが、はなんと言っていいかわからずに、ただ唇を結ぶ。相澤の手のひらが頬に添えられる。は伏せていた目を相澤へと向けた。相澤の親指が、下唇をやさしく押し開けた。
「声は我慢するなよ」
「は、はい」
「……赤面症は治ってないのか?」
かすかに笑いを含んだ声だった。赤面症というわけではない。ただ、学生のころから相澤を前にすると、すぐに頬に熱が集まってしまうのだ。
「お、お酒のせいですからっ」
は慌てて答える。すこしだけ緊張がほぐれて、はシーツを握っている手の力を抜いた。ちゅ、と軽くキスをして、相澤の唇は首元へ落ちた。舌が肌を這う感触にぞくりとして、腰のあたりがじんと疼く。
「あっ、や、っん」
シーツに縫いとめるような形で、相澤の指がの左手に絡まる。は右手を相澤の首へ回した。
ブラジャーのホックがはずされて、完全に胸がさらけだされる。鎖骨に軽く歯が立てられ、は喉を反らした。「っは……!」ぞわぞわとした感覚が広がっていくのを感じる。相澤の唇が、肌をついばみながら胸元へ降りていく。はつながった指に無意識に力を込めた。
一度、伺うように相澤の瞳が顔へと向いたが、すぐに胸元へ視線が落ちる。そうして、つんと固くなった乳首を食まれる。の背が反った。
「あっ、ふ……ぅっ」
肋骨の凹凸を確かめるように指が肌の上を這って、臍の窪みを悪戯に撫でたかと思えば、あっという間に片手で器用にショーツを脱がしてしまった。は反射的にぴたりと太ももを閉じたが、相澤の腕が間を割って入ってくる。
「……力を抜け」
「は、はい」
は相澤の言葉に一瞬だけ、大袈裟なくらいに身を強張らせたが、すぐに息を吐いて身体を弛緩させるよう努めた。厳しく指導された学生の頃の癖がなかなか抜けなくて困る。
「いい子だ」
柔らかい言葉とともに、相澤の口元が緩む。見慣れない表情にはぼんやりと見惚れた。
相澤の指が躊躇うことなく、茂みを割って秘部に伸びた。そっと入り口に触れた指の腹は、潤いを確かめたようだった。くちゅ、とかすかに湿った音がの耳にも届いた。
「っや……」
は恥ずかしさに顔を背けた。
ふいに乳首に軽く歯を立てられ、は小さく息をのむ。ちゅう、と唇はそのまま乳首に吸い付いて、舌が絡みつくように舐った。「ん、あ、ふぅ……ひ、あ!」胸への愛撫に気をとられているうちに、秘部のなかへ指が埋められる。
は異物感に眉をひそめた。
「ん……っ」
「せまいな。濡れてはいるが……痛むか?」
「い、いえ、平気です」
ゆるゆると中指が抜き差しされる。痛みはないが、違和感が強い。は不安に相澤を見つめた。
「なるべく優しくするよ。だから、そんな顔をするな」
「先生……」
二十歳を過ぎて酒を飲めるようになってもなお、自分はまるで生徒のように子どもみたいだ。「相澤先生、すきです……」けれど、あのころ決して口にできなかった想いは、言葉にすることができる。
相澤が吐息を吐くように、静かに笑った。
「知ってるよ」
こんな風に、目尻を下げて優しく笑うなんて、知らなかった。
相澤の指が二本に増えて、秘部を押し広げる。「んっ……」ぴく、と身体に力が籠るが、は息を吐いて意識的に脱力した。
「っふ……ん、は、ぅ」
ゆっくりと動かされる指は、を気遣ってくれていることがよくわかる。初めてが相澤でよかったと思うが、反対に相澤にとっては迷惑かもしれないと考えると申し訳なかった。
「あっ……!」
相澤が親指でクリトリスを掠めるように触れた。新たな刺激には甲高い声を上げ、びくりと腰を跳ね上げた。
中の指はそのままに、クリトリスをぐりぐりと指の腹で潰される。「っひ、あ、ああっ」は強すぎる刺激に逃げるように身を捩るが、相澤に圧し掛かられてほとんど無意味だ。
「せん、せ……っ」
には、もう相澤が先生ではないということを、気にする余裕がない。大きく上下するの胸に寄せられた唇が、ちゅっと音を立てて肌に吸いついた。小さな痛みが走る。
「んぅっ……」
ぐるりと膣内を広げるように動いた指がおもむろに抜かれる。は肩で息をしながら、相澤を見つめた。しっとりと濡れていた相澤の髪の毛は、ほとんど乾きつつある。
汗で額に張り付いた髪を、そっと相澤が払ってくれる。やさしい仕草だ。
「大丈夫か」
「はい……」
はようやく息を整える。
相澤がの様子を見ながら、慣れた手つきで自身にゴムをつける。は途端に緊張してしまう。
相澤に大きく足を開かれる。あらわになった秘部を隠す術などなく、はぎゅっと目を瞑る。
「、力むな。ほら、深呼吸」
言われるがまま、は深呼吸を繰り返す。すう、と息を吸い込んだところで、秘部にあてがわれた熱を感じた。
「ふ、あぁ、──っあァ!!」
押し広げられる感覚がして、それから身を引き裂くような痛みに襲われる。悲鳴じみた声が漏れ出た。
予想していたよりもずっと痛い。は全身を強張らせ、涙をにじませる。
「っ、」
相澤の声に反応して、は目をうっすらと開ける。「あ……」相澤の髪が逆立っている。はそこで、自分が無意識に個性を使おうとしていたことに気づいた。
「相澤先生……ご、ごめんなさい」
「いや、大丈夫か?」
ふっと髪が下りた相澤の指が、の目尻の涙を拭った。
「辛いならやめるが」
「や、やめないでください! すごく痛いですけど、でも、わたし嬉しいんです」
は慌てて相澤の腕を掴んだ。
酒の力を借りてまで、これはが望んだことだ。
「だから、最後までしてください。お願いします」
「……わかった」
すこしだけ奥に進むだけで、鋭い痛みが走る。ぐっと噛みしめる唇をほぐすように、相澤の口づけが落ちる。絡みつく舌に応えるうちに、痛みが段々と鈍くなってくる。
「っは、ん、んん……先生……」
ぐぐぐ、と相澤の男根がゆっくりと押し進められて、奥まで届いた。相澤が深く息を吐いた。
「入ったぞ」
「ん、は、はい」
ジンジンとした痛みに加えて、圧迫感で苦しい。それでも、相澤と繋がれた嬉しさで胸が打ち震えた。
涙が溢れるが、の唇からは笑みがこぼれた。
「相澤先生、わたし、幸せです」
相澤の手が頬を包んだ。ぽろぽろと溢れる涙を拭ってくれる。
「あんまり可愛いことを言ってくれるな。これでも、自制してんだ」
「えっ……」
可愛い、という言葉に、の頬は火が出る勢いで紅潮する。「おい、言ったそばから……」相澤が呆れたようにつぶやく。
「、」
相澤の声が耳元に落ちる。触れた吐息にぞくぞくと背筋が震えた。相澤がの下の名前で呼ぶのは、おそらく初めてだった。
「動くぞ」
は小さく頷きを返した。
相澤のものでぎちぎちになった膣内は、ゆっくりと引き抜かれるだけでもやはり痛みを伴う。それでも、相澤の動きは慎重で、痛みを最小限に抑えようとしてくれている。
唇が舌先でこじ開けられて、は無意識に息をこらえていたことに気がついた。「っは……ん、」口内に酸素と舌が入り込んでくる。ぬぷぷ、と愛液のおかげでわりかしスムーズに、相澤の男根が奥へと押し進む。やさしい抽送が繰り返されるうち、痛みだけではなく腰がぞわりとするような感覚をかすかに感じた。
「んっ、せん、せ……あっ、」
、とキスの合間にこぼれた名前に、言いようのない感情があふれる。「っ、絞めるな……!」相澤の声にはどこか余裕がないが、はそれを感じ取ることどころか言葉の意味を理解することすらも、困難だった。
「あっ、は、んぁ……っ、ふっ、っせんせい……!」
ぎゅ、と相澤の首に腕を回して抱きつく。
破瓜の痛みは鈍く広がっている。耳元で相澤のすこしだけ乱れた呼吸を感じながら、の思考はぼんやりと形を失っていった。
「……おはよう」
いつもよりも幾分かかすれた、気だるげな声が降ってくる。
は何度か瞬きをして、それからすぐに慌てて身体を起こした。「相澤先生!」自分がなにも身に着けていないことに気づいて、ははっとしてシーツに潜り込む。ずきりとする鈍い痛みが昨夜のことを思い出させる。
「あ、あの、おはようございます……」
顔を真っ赤にして、尻つぼみに消えていく言葉を紡ぐ。相澤がくつくつと笑っている。
「身体は大丈夫か?」
「は、はい」
「昨日のことは、覚えているな?」
「は、い……も、もちろんです」
相澤の手が伸びて、くしゃりとの頭を撫でた。「無理をさせたな」相澤がやわらかく目を細める。は首を横に振った。
「相澤先生……」
「おい、いい加減、先生はやめろ。いつまで生徒のつもりだ」
「えっ、あ、すすすみません」
は心の中で、何度かその名前を呟いて、それから震える声を唇に乗せる。
「しょ、消太さん……」
めずらしく、相澤が照れたように目を逸らした。その反応見たのほうが、羞恥心に襲われて、茹蛸のような顔をシーツに埋めて隠した。