「チルチャックって、意外とあの子のこと気にかけてるよね」
シェイプシフターの一件では、それぞれ意外な一面を知ることができた気がする。
マルシルは、ちらりとチルチャックの顔を見やるが、少しだけ嫌そうに表情を歪めただけで大した反応は見られない。つまらない、と唇を尖らせて不満をあらわにする。
「そういえば、やたらと彼女に冷たいチルがいたよね」
「……なんだよ」
「あんまりすげない態度だと、愛想つかされちゃうんじゃないの~」
にやにやと笑ってみせるが、チルチャックはふんと興味なさげに鼻を鳴らすだけだ。
マルシルはチルチャックをからかうのをやめ、ライオスへと視線を移した。その隣には、いつの間にかすっかりパーティに馴染んでしまったがいる。正直言って、マルシルは彼女のことが苦手だ。それもこれも、彼女にまつわる噂は、あまりに下品で耳障りなものだからだ。
意外といえば、とマルシルは顎先に指を添えて、偽物たちを思い返す。犯人探しはしない、とは言ったものの、気になるのだから仕方がない。
ライオスの背に隠れてもじもじする彼女は、明らかに偽物だった。ライオスだけが懐かしそうに「昔はこんなふうに、ファリンと一緒になって俺の後をついてきたんだよな」と、しみじみと呟いた。昔の話でしょ、と一蹴したいまのからは想像もできない姿だった。
「……おい、犯人探しはしないって言っただろ」
チルチャックが呆れたように言う。マルシルとしては、本物に似ても似つかないあの自分をイメージした犯人が誰なのか突き止めたい気持ちがあったが、「わかってるよ」とため息交じりに答える。
「それと……べつに、あいつに嫌われようが、俺には関係ない」
チルチャックがむすっと言い放つ。あの可愛いチルチャックはたしかに脚色されていたか、と思いながら、マルシルはチルチャックの髪をくしゃくしゃと撫でた。「うわ! や、やめろっ」と、抵抗してくるのは偽物と同じである。
すっ、と白い手が伸びてくる。マルシルは思わず息を呑む。
その手は、乱れたチルチャックの髪を梳いて、やさしく撫でつけた。チルチャックの頭をその豊満な胸に抱いて、が言った。
「わたしのチルチャックを虐めないでね」
素早く腕から抜け出たチルチャックが「誰がお前のだ!」と高らかに叫んだ。薄らと赤くなったチルチャックの頬を見ながらマルシルは思う。チルチャックが手籠めにされる日は案外近いかもしれない──
「……なんてね」