えっ、と驚きの声を上げたのは、わたしだけではなかった。
 タクミさまが確かめるように瞬きをして「しまった!」と、慌てて閉まる扉に手を伸ばした。しかし、無情にもバタンと閉じた扉は、なんと跡形もなく消えてしまった。タクミさまがどん、と拳を壁に打ちつける。
 わたしもまた後ろを振り返るが、そこにあるのはただの壁だった。手のひらで、今しがた入ってきた扉があるはずの場所を撫でるが、ただの壁だ。まるでからくり屋敷のようだけれど、残念なことに種も仕掛けもないのである。だから、どこを探しても、入ってきた扉は見当たらない。

「…………」

 わたしが諦めて振り向けば、タクミさまもまた、険しいお顔をしてこちらを振り返るところだった。互いに顔を見合わせて、沈黙する。タクミさまがさっと周囲に視線を走らせた。
 わたしはちら、とひとつだけある扉を見る。タクミさまが入ってきたものでも、当然わたしが入ってきたものでもない。鍵穴はない。かといって、周囲に解錠できそうな仕掛けも見当たらない。

 わたしは黙って、タクミさまのお言葉を待った。
 身分の低いわたしが、口を開くべきではないと判断したのだ。黙するわたしの元へ、タクミさまの視線が戻ってくる。

「……例の部屋だね」

 タクミさまが苦虫を噛み潰したような顔をして、忌々しげに言った。「さっさと出よう」と、タクミさまはそのお顔のまま、お部屋の中央に置かれた寝台へと近づいていく。
 暗夜の寝具は、いつ見ても寝ている間に寝返りで落ちてしまわないのか、不安になる高さである。

 ため息を吐いて枕元に手を伸ばしたタクミさまが、わたしを見る。

「いつまでそうしてるつもり? こっちにおいでよ」
「はい」

 わたしはひとつ頷いて、タクミさまのお傍へと寄らせていただいた。手にしていた小さな紙をわたしに向かって差し出し、タクミさまは大きなため息を吐いた。

「馬鹿げてる」

 タクミさまの苛立たしい声を聞きながら、紙へと目を落とす。
 二人合わせて十回絶頂しないと出られません。
 なるほど、確かにこれは馬鹿げている。しかし、この指示書に従わなければ、一生この部屋に閉じ込められたままかもしれないのである。難儀なものだ。わたしは紙から顔をあげて、タクミさまを見やった。タクミさまはそっぽを向いていたが、その耳が赤くなっていたので、恥ずかしがっているのだとわかった。まあ、まだ思春期の彼には刺激が強いのだろう。

「お互い、自分で身体を慰める。それでよろしいのでは?」
「は……」
「性行為をしろ、とは書かれていません」

 タクミさまがわたしの手の内の紙をひったくる。まじまじと見つめてから「ほんとうだ」と、小さく呟いた。

「……わかった、早急に済ませよう」

 努めて冷静に言った、ように見せかけて、タクミさまのお顔は真っ赤だった。しかし、彼は躊躇いなく、ご自身の帯紐に手をかけた。
 
 わたしはタクミさまに背を向けて、同じように帯を解いていく。
 しかし、困ったな。言い出しっぺでありながら、わたしはそういう経験が点で少ない。とはいえ、この部屋に入ってしまった以上は、なるようにしかならない。
 服をすべて脱いで振り向くと、タクミさまはベッドの縁に腰を掛けていた。

 うなだれる背中が見える。よかった、上の服は前を寛げただけのようだ。そのおかげで、わたしの動揺は思ったほどのものではなかった。

「タクミさま?」

 わたしが声をかけると、タクミさまが弾かれるようにしてこちらを振り返った。その視線が一瞬身体のほうへと落ちて、すぐにさっと顔を元の向きへとお戻しになる。

「その、……ごめん、」
「どうなされたのですか?」
「…………ない」
「え?」
「勃たないって言ったんだ! こんな状況じゃ変に緊張するし、ムードもへったくれもないし」

 これは予想外である。タクミさまの背中を見つめながら、彼はとても繊細なひとだったと思い至る。そりゃあ、人前で自慰しろと言われても、できるわけがなかった。

「タクミさま、御前を失礼いたします」
「は!? ちょ……」

 狼狽えるタクミさまの声を無視して、わたしは前へと回り込んで膝をついた。
 ふにゃりと下を向いたそれは、見ようによっては松茸のようにも見える──なんていうことはなかった。ぴくり、と小さく動いたそれにそうっと手を添える。



 名を呼ばれて、わたしは顔をあげる。
 片手で顔を覆いながらも、浅緋色の垂れ目がこちらを覗いていた。「それ、やめてくれる」と、不機嫌そうに言われて、わたしはぱっと手を離した。

「そうじゃない! 変に畏まるのをやめろって言ってるんだよ、わかるだろ?」
「変に?」
「今さらそんなふうに、臣下ぶってさ。僕らはカムイ姉さんよりよっぽど、きょうだいみたいなものだろ」
「……タクミさま」

 わたしは少し、険のある声を出した。カムイさまの耳に入らずとも、そんな物言いをするべきではない。タクミさまもすぐにご自身の失言に気づいて、ばつの悪そうな顔をした。

 それにしても、そうか。
 タクミさまのものが反応なさらないのは、この部屋に閉じ込められたのが、他でもないわたしだからということか。なるほど、と冷静に受け止めたつもりだったけれど、胸の奥がじくりと痛んだ。
 タクミさまは馬鹿だな。乳母きょうだいといったって、所詮わたしはどこまで行っても臣下でしかないのに。

「タクミさま。申し訳ありませんが、割り切ってください」
「……っ」
「早急に済ませてしましょう。大丈夫です、この部屋を出ればきれいさっぱり忘れますから」

 タクミさまのお言葉を借りて、わたしは再び手を伸ばした。
 大丈夫、と何度も自分に言い聞かせる。こんなことは、この部屋限りだ。だから、わたしだってこの胸の痛みと共に、すべてを忘れてしまえばいい。


 陰茎を右手で包み込んで、その柔らかさを確かめるように、指を動かして握ったり緩めたりを繰り返す。緊張で冷えていた手のひらに、その温かさが移ってくる。はあ、と頭上からタクミさまの吐息が降ってきた。
 気持ちいのだろうか。
 それを確かめようと視線を向けるが、タクミさまは思い切り顔を背けられた挙句、わたしの頭に手を添えて下を向かせた。

 この調子で十回なんて、気が遠くなる。
 わたしは口を開いて、ぱくりと先端を咥えた。ぐ、と頭に添えられたタクミさまの手に力がこもるのがわかった。
 むにゅりとしていた感触が、口の中で次第に硬くなっていく。一旦口を離して状態を確認したかったが、タクミさまの手が頭を押さえつけるような形になって、うまく動けなかった。

「んん……」

 さらに硬さを増した陰茎が質量を増していく。ぬる、と唾液にまみれた舌が必然的に陰茎に絡みついて、タクミさまが小さく呻いた。

「っ、……」

 タクミさまの声がわずかに上ずっている。ちゃんと気持ちいいようで安心した。

 タクミさまの手の力が緩んだ隙に、苦しくなってきたわたしは口を離した。陰茎の先端と唇を、唾液が伝っていた。ごくり、と喉を鳴らしたのはどちらだろう。

「勃ちましたね、タクミさま」

 あとはご自由に、というつもりで立ち上がったが、タクミさまがわたしの手を掴んだ。
 わたしを射抜く視線の意味がわからないほど愚鈍ではないが、それに答えるほどの度胸もなかった。いっそのこと、タクミさまのその熱が、わたしを溶かしてしまえばいいのに。

 タクミさまを嗜めるつもりで開いた口から「わっ」と、色気のない悲鳴が漏れた。掴まれた手をふいに引っ張られたせいである。
 存外力が強くて、わたしはそれなりの勢いをもってタクミさまに倒れ込んだが、痛みはなく軽い衝撃が走っただけだった。タクミさまの腕の中で、わたしは身を強張らせる。勃起したものが剥き出しの腹部に触れていた。心臓が口から飛び出てしまいそうだった。

「た、タクミさま、」
、昔みたいにタクミって呼んでよ」
「そ、そんなこと、許されません」

 身じろぎすると、タクミさまの腕の力が強まって御髪が肌を撫でていく。
 おもむろに身を離して、タクミさまはわたしの顔を覗き込んだ。泣きそうな顔がタクミさまの瞳に映っていて、わたしは唇を噛んだ。タクミさまはそれを見て、ほんのわずかに眉尻を下げたかと思うと、そっと唇を合わせた。

 こんなことだって許されないとわかっていた。伏せた目の向こう、タクミさまがこちらを窺っているのがわかる。
 一度離れた唇が角度を変えて触れて、今度は舌先が伸ばされた。閉じられた唇の表面を舌が這って、その慣れない感覚に思わず口が緩んでしまう。その小さな隙間を縫ってタクミさまの舌が侵入してきた。とても自然で、手慣れている。

「ふ……!」

 柔らかい舌がまるで別の生き物にでもなったかのように、わたしの口の中で動きまわる。逃げた舌を追いかけて絡めとると、じゅっと吸いついた。舌の表面を合わせたかと思えば、裏側をつつく。

 わたしの震えた背中を、タクミさまの指がつーっとなぞって腰まで下りていく。
 ぞくりとした感覚が走って、わたしは思わず身を捩ったけれど、タクミさまの唇は離れてくれなかった。わずかにずれた唇を追って、タクミさまが食むようにして口づける。口を結ぶ暇もない。反射的に引っ込めてしまった舌を咎めるように、軽く歯が押し当てられた。
 わたしは少しだけ瞼を押し上げる。涙で滲んだ視界に、タクミさまの長い睫毛が見えた。

「ん、ぅ……」

 タクミさまがわたしの腰を抱き寄せて、そそり立ったご自身を押しつけてくる。ぬるりとした感触があった。
 、とタクミさまが吐息交じりに囁く。

「じゃあこれは命令だよ、タクミって呼ぶんだ」

 どうして、という言葉は声にならなかった。間を置かずに唇が重なったからだ。
 タクミさまはずるい。
 またわたしの口内を好き勝手に蹂躙して、タクミさまは唇をようやっと解放した。あまりにも長いこと接吻していたせいで、唇がじんじんとするような気がする。まさか、口づけのし過ぎで唇が腫れるなんてことはないよね、と一抹の不安が頭を過ぎる。

 タクミさまは口端についた唾液を指先で拭って、視線だけで言葉を促した。

「……タクミ」

 いつもの不機嫌で生意気そうな顔はどこへやら、タクミさまが垂れ目をさらに柔和にさせて、満足げに笑んだ。
 ほんとうに、タクミさまはずるい。

 タクミさまはわたしを抱き上げると、ご自身に跨らせ腕を首へと回させる。下着のない秘部に、タクミさまのものがくちゅりと触れる。

「あれ、濡れてるね」

 意外そうに言ったタクミさまを軽く睨む。いちいちそんなこと、口にしないでほしい。

「ふふ……ごめんごめん、嬉しくて」

 謝罪を口にしつつも、少しも悪びれる様子がない。

、初めてじゃないよね?」

 わたしの腰を揺らしてゆるゆると先端で秘部をなぞりながら、タクミさまが問うた。わたしは漏れそうになる声を何とか抑えて、頷いた。
 ふぅん、と呟いたタクミさまが腹部に指を這わせた。その手の行き着く先を想像して、わたしは知らずに期待してしまう。ぴくん、と身体を跳ねさせたわたしをタクミさまは見逃さなかったようで、忍び笑いを漏らす。

「それにしては、初々しいよね」
「そんなこと、は……タクミ、は、手慣れていますね」
「そう? 別に普通だよ、もう子どもじゃないんだ。夜伽くらい教わってる」
「ふつう……っん、」

 腹部を撫でていた手が下へとおりて、茂みに触れた。
 声が漏れた唇をタクミさまの肩に押し当てる。こんな声、恥ずかしくてたまらないのに、我慢ができそうにない。
 「触るよ」と、タクミさまが律儀にも告げるので、わたしは声を出さずに小さく頷いた。いちいち確認しなくてもいいから早く触ってほしかった。

 タクミさまの指先がそうっと、触れるか触れないかというくらいの柔らかい手つきで、大陰唇を撫でた。待ちわびた刺激ではなかったが、びくりと身体が震えて「ん!」と声が出てしまう。
 ふ、とタクミさまが笑った。

 ──まだ思春期の彼には刺激が強いのだろう、なんて思っていた自分を殴りたい。
 タクミさまのほうがよっぽど余裕がある。そうだ、気がつけばタクミさまのお顔もお耳さえも赤くない。反して、わたしは全身を火照らせている。

は敏感だね」
「ッふ……ぅ、タクミは、意地悪です」
「……そんなこと、知ってるだろ」

 タクミさまが少しだけ呆れた声を出して、指を秘部の中心へと走らせた。中指の先がひっかくような動きをして、一瞬だけぬかるみに触れる。

「ひっ……!」

 自然と背が反って、タクミさまから唇が離れてしまった。
 ふるりと眼前で震えた胸に、タクミさまが顔を寄せてくる。ふに、と柔らかいところを唇で食んでから、吸いつく。ぴりっと痛みが走ったかと思えば、すぐに舌がそこを這っていた。痛みを、ぞわりとした感覚が上書きしていく。

「っは、あ」

 ちゅぷりと音を立てながら、中指が秘部に入ってくる。わざとなのか、そうでないのか、タクミさまの亀頭が陰核に押しつけられて、びりびりと電流が背筋を駆け抜けるような感覚がした。滲んでいた涙が、まなじりからぽろりと溢れる。
 タクミさまの指がなかでくるりと円を描く。「狭いな」と呟いた口が、ぱくりと乳首を含んだ。

「あっ、や、ぁうン……!」

 声が、止められない。
 「タクミさま」とぽろりと落ちた言葉に腹を立てたのか、かりっと乳首を甘噛みされる。痛みはなく、ただ鋭い刺激だけが走った。

「んッく……ぁ、は……っ」

 わたしは身体を震わせながら、タクミさまに凭れた。タクミさまの片腕が背中を抱き寄せ、ついでとばかりに肩甲骨を指先がなぞった。くすぐったいような、そわそわと落ち着かないような、言い表せない感覚がした。胸元から顔をあげたタクミさまが、わたしの首筋に口づける。柔らかい唇の感触が気持ちいい。
 タクミさまの指がもう一本、ゆっくりと差し込まれる。きゅっと膣壁がタクミさまの指を締めつけた。ゆるゆると指が抜き差しされて、腰が揺れてしまう。そのたび、タクミさまの亀頭が陰核に触れて嬌声が漏れた。

「はあ、は、ああ、」
「大丈夫? 痛くない?」
「っ、は、い……」

 わたしの是は言葉になっていただろうか。
 そう思って、いつの間にか閉じていた瞳を開けば、タクミさまの浅緋色がすぐそばにあった。距離が近いせいか、涙のせいか、タクミさまの表情がよくわからない。

「……いれるよ」

 タクミさまは囁いて、中から指を引き抜くと、ひたりと陰茎を秘部の入り口に添えた。
 二本の指でほぐされたそこはもう十分に濡れていて、さしたる抵抗もなく、くぷりと亀頭を飲み込んだ。わたしの自重も手伝って、そのまま陰茎が深くまで入ってくる。

「あっ、あ、や……!」
「は……濡れてるのに狭いし、すごく熱い、」

 タクミさまがぐっと腰を掴んで、一度動きを止めた。「痛くはないみたいだね」と、小さくごちて、タクミさまが長い息を吐いた。首筋に触れる熱い吐息にすら、わたしは身体を震わせた。
 タクミさまがわずらわしげに、肩に引っかかっていた服をぱさりと落としてしまう。
 普段は首元まで隠れていてわからない、その少年らしく華奢でありながら、うっすらと筋肉のついた肉体がそこにはあった。
 
、動くからね」
「っァああ! ん、あッ、っひん! あ、あっ!」

 宣言通りにタクミさまがわたしを突き上げて、その動きに合わせて嬌声が部屋に響く。
 タクミさまが、わたしのなかに入っている。そう考えるだけでひどい昂ぶりを覚えて仕方がない。たいして気持ちいいと思っていなかった行為なのに、タクミさまが相手だというだけでこんなにも違うなんて。

 ──割り切ってください。この部屋を出ればきれいさっぱり忘れますから。なんて、いったいどの口が言うのだ。

「やだ、あ、っやああ!」

 ぐり、と子宮を抉るように奥深くまで突かれて、わたしは悲鳴じみた声を上げた。一瞬、タクミさまが動きを止める。

「やだ? いい、の間違いだろ?」

 タクミさまは意地悪く言って、ぐっと奥を突き上げる。
 悔しいけれど、タクミさまの言う通りだ。先ほどの同じ場所に、タクミさまの硬いものが擦りつけられる。ぎゅ、ぎゅ、ぎゅうっと膣壁が勝手に陰茎を締めつけて、タクミさまが小さく呻いた。

「っン、ぅううう~…………!」

 ああ、もう、だめ。
 もう一度最奥を穿たれて、わたしはほとんど泣き声みたいな嬌声と共に達してしまった。タクミさまがすべてをなかに埋めながら、ぴたりと動きを止める。がくがくと腰が痙攣して、タクミさまは一切動かれていないのに、最奥に亀頭が擦れてはびりりと気持ちよさが電気のように走った。
 はあはあと大きく息を乱しながら、くたりと弛緩したわたしを抱き寄せて「イった?」とタクミさまが耳元で囁いた。

 ぽた、とタクミさまの肩に落ちたのが、わたしの涙か汗か、よくわからなかった。タクミさまの言葉をうまく処理できないまま、緩慢な動きでわたしは視線を合わせた。
 タクミさまの指が目元に触れて、弾けた涙を拭った。

「イった回数、数えないといけないだろ。僕はイったらわかるだろうけど、はちゃんと申告してくれないと」
「そ、うだった……」

 今さら、この始まりを思い出して、わたしは小さな声で「イきました」と答えた。

「じゃあ、さっそく一回目だね」
「タク、ミ……」
「その調子。もっと、可愛い顔見せて」
「ひゃっ、や、急にっ……んッ、あ、あぁっ」

 タクミさまが再び、がつがつと奥を突き上げてくる。一度達したせいか、先ほどよりもずっと滑らかに動くようだった。時おり、タクミさまがわたしの腰を引き寄せて、子宮の入り口に先端を押しつける。

「っふ、はッ、は、ぁは……!」

 少し引いていったはずの快楽の波が、またすぐに戻ってくる。ぎゅう、とタクミさまの腕がわたしを抱きすくめる。

「ほら、イきなよ。

 ぐぐぐ、とタクミさまの硬くて熱いそれが、気持ちいいところを刺激してくる。
 気持ちいいがお腹の奥に集まって、弾けた。

「っひぁ、あ、あアアっ!」

 全身を強張らせ、びくびくと震えるわたしを抱きしめて、タクミさまは再び「イった?」と意地悪げに囁いた。



 寝台にわたしを寝かせて、タクミさまが覆いかぶさってくる。蕩けきった秘部に亀頭をくっつけて「いくよ」と、タクミさまが腰を進めた。ずずず、と陰茎が入って膣壁を擦るその感覚に、わたしは背をのけぞらせた。
 すべてをわたしのなかに埋めたタクミさまが、ふと下腹部に手を乗せる。

「……?」

 わたしはぼんやりと瞬きをして、タクミさまを見つめる。

、わかる? ここに、僕が入ってるんだよ」
「そ、んなこと」
「言わないでほしい? でも、……すごく、締めつけてくるよ」

 タクミさまはその垂れ目を、とても生意気そうに細めた。浅緋色の瞳が燃えているみたいで、その視線でわたしを焦がしてしまう錯覚があった。
 指先が優しく肌を這って、ぞわぞわとした感覚がわたしを呑み込んでいく。

「は、アっ、っふう、」

 声が出てしまう唇に手の甲を押し当てれば「だめだよ」と、タクミさまが言って、わたしの手を寝台へと優しく縫いつけた。

「可愛い声、聞かせて」
「んぅ、っひぁあ、あ! ああ、やっ、はあぅっ!」

 声を隔てるものがなくなって、わたしのあられもない嬌声が、部屋の中に響き渡る。わたしは恥ずかしくてたまらないのに、タクミさまはとても満足げだ。
 腰を打ち付けられるたびに、ぐちゅぐちゅと結合部から耳を塞ぎたくなる淫猥な水音がする。

 タクミさまは揺れるわたしの胸を、ふにゅりとその手のひらに収めた。乳首をこねるように潰して、指をふくらみに沈める。わたしは身をくねらせ、細切れにあえぐばかりだ。
 先ほど吸いつき、赤く散らした鬱血痕を、タクミさまがそうっと撫でた。
 
「ッあ! ああ、ぁっ!」

 ぐり、とタクミさまがより深いところを穿った。

「や、ぅン、あ……イっく……!」
「三回目」

 タクミさまの声には笑いが含まれているように聞こえた。わたしには、何かを言い返すほどの余裕はない。
 タクミさまの手が、ぴくぴくと震える下腹部に伸びる。するりと撫でたその手が、ふいに子宮のあたりを圧迫した。「は、ん」とだらしなく開いたわたしの唇から、唾液と共に声が漏れた。

「ここも好き?」

 タクミさまはそこを押さえたまま、わたしの腰を弓なりに反らせて、触れているところめがけて陰茎を擦りつけた。お腹の柔らかい脂肪を挟んで、タクミさまの手はご自身に触れたようだった。

「え? あっ、え、な」
「ほら、。触ってみなよ、ここに、僕が入ってる」

 タクミさまが、わたしの手をそこへと導いた。タクミさまの手が重ねられて、ぐっと軽くお腹を押せば、ぽこりとした硬い感触が確かにそこにはあった。

「なに、え、」

 わたしの手を押さえながら、タクミさまがぐりとゆっくり、膣壁を抉る。

「ん、やああァ……!」

 ぶわり、と何かがあっという間に広がって、わたしはびくびくと身体を震わせていた。
 タクミさまが顎に伝い落ちる唾液を拭った親指を、わたしの口の中へと侵入させた。頬の柔らかいところをくにっと押しながら「四回目?」と、タクミさまが小首を傾げた。

 わたしの呼吸が落ち着くのを待ってから、タクミさまは律動を再開させた。
 四回もほとんど間を置かず達したせいで、わたしの身体はすっかり箍が外れてしまったようだった。もうずっと気持ちいいのだ。奥でも、浅いところでも、ちょっと抉るような動きをするだけで、


 グリッ。

「はあっ、あ、イクぅ……!」
「五回目」

 ゴリッ。

「あっ、や、またっ、イっ!」
「六回目」

 ググッ。

「ひっ、だめぇ、あッ、イっちゃ、う!」
「七回目」

 ズンッ。

「ぅあア、っは、ん、イく……!」
「八回目」


 続けざまに達して、もう何が何だかわからない。タクミさまのものが抜けていく感覚すら、ぞくぞくと気持ちいい。すべてが抜け切るギリギリまで引き抜いて、タクミさまはズプンと一息に奥まで突き刺した。

「っふ、んぁアア! ひ、や、またぁ……っ!」
、何回イったかわかる?」
「わか、な……あ、ああっ、あぅ……ッ」

 びくびくと跳ねるわたしの身体を押さえつけて、タクミさまが腰を打ちつけてくる。

「はっ、せっかく、ぼくが数えてあげたのに」
「あっ、あ、ごめ、なさ」
「このままっ、僕がイけば……っはァ、十回目だ」
「んっ、う、ふぅ……っ」

 タクミさまが身体を密着させて、唇に食らいつく。大きく喘ぐわたしの口に、舌が入ってくる。にゅるりと絡む舌が気持ちいい。



 ふと、思い出したかのように、タクミさまが律動を止めた。思わず、わたしの腰が揺れてしまう。

「初めては、リョウマ兄さん……なんて言わないよね?」
「な、に……そ、なわけ……」
「そう。よかった、安心した」

 タクミさまは小さく笑うと、律動を再開した。先ほどよりも激しい。

 出すよ、ってタクミさまの声が聞こえたような気がするけど、定かではなかった。ぎゅ、とわたしをきつく抱きしめて、タクミさまはそのまま膣内射精された。
 根元まで入った陰茎が、射精のたびにぴくりと震える。ぐっと奥を押し潰されて、わたしは達してしまっていたけれど、申告しなかった。あまりにもイきすぎて恥ずかしい。でも、言わなくたって、きっとタクミさまにはバレてしまっている。

 小さく痙攣する下腹部を、タクミさまの指が優しく撫でた。

「責任は取るよ。だから、この部屋を出ても忘れないでよね」

 そんなふうに懇願するように言われては、命令でなくたって、わたしは頷く他ない。
 ずるいひとだ。

 それにしても、前後不覚になりすぎて、変なことを口走っていなかっただろうかと急に不安になる。例えば、好きだとか──

「僕も好きだよ、

 一瞬、口に出してしまったかと思った。

「ごめん、好きな子には意地悪したくなるんだ」

 タクミさまが少し眉尻を下げて笑った。
 ……意地悪なされていた自覚があったんですね!

明けゆくしとね

(腕の中 / 思い出した / どうして)