ユーリス=ルクレールは、最近召喚したばかりの英雄である。
 したがって、わたしは彼のことをよく知らない。彼より先にこちらにきていたベレト先生は、ユーリスさんを「本人は自分を悪党と言い張るが、困った人を放っておけない面倒見のいい生徒だ。何かあれば頼るといい。クロードよりもよっぽど安心だ」と、評した。

「……なんだこりゃ。読めるか?」

 ユーリスさんは怪訝そうに眉をひそめながら、わたしにメモ紙を差し出した。

「SEXしないと出られません。なお、ゴムは口でつけること」

 口に出して読んでから、とんでもないことが書いてあることに気がついて、わたしはメモ紙を凝視した。そこには日本語で、わたしが読み上げた文面が書かれている。なんてこった。

「セックス? ゴム?」
「ええと、」

 相変わらず不可解そうな顔で、ユーリスさんがわたしの手元を覗き込んだ。ふわり、といいにおいがする。
 近すぎる距離に思わず力んでしまって、くしゃりと手の中でメモ紙が歪む。

「SEXは性交渉のことで、ゴムは避妊具のことです」

 菫色の瞳が丸く見開かれたかと思えば、すっと細められる。「へえ?」と、ユーリスさんはわたしの肩を抱いて、さらに顔を近づけてきた。反射的にのけ反るが、距離の近さはほとんど変わらない。
 わたしはその美しい顔から、目を逸らした。

「さすがの鉄仮面。余裕だなあ」


 ──説明しよう。
 わたしは緊張したり、驚いたり、感情のふり幅が大きければ大きいほど表情筋がピクリとも動かなくなってしまうのだ。召喚師の、がいつの間にか鉄仮面の、と呼ばれているのも致し方のないことである。

 現に、いまわたしの心臓は口から飛び出そうなほどドキドキしているが、菫色の瞳に映るその顔はまるでチベットスナギツネそのものなのだ。

 それにしても、これがまことしやかに囁かれる”出られない部屋”なのか。
 ユーリスさんもかわいそうに。特務機関には、可愛くてきれいで魅力的な女性がたくさんいるのに、よりにもよって鉄仮面の女と閉じ込められるとは。起つものも起たないのでは、と一抹の不安を覚える。そうしたら、一生この部屋に閉じ込められたまま、かもしれない。

「ま、さっさと済ませちまおうぜ」
「わっ」

 言うが否や、ユーリスさんはわたしをベッドへ放った。やや粗雑だが、乱暴ではない。
 伸びてくる手が、躊躇いなくわたしのローブを脱がしにかかる。

 ま、ままま、待って、心の準備が!
 わたしの頭の中は混乱しきっているというのに、相も変わらず表情筋はピクリとも動かない。そうこうする間に、ローブがベッド脇に放られてしまう。

「へえ、意外と……」

 ユーリスさんの視線が、頭のてっぺんからつま先までさっと走るのがわかった。たった一枚、布がなくなっただけでずいぶんと心許ない。

「ついてるぜ、
「え?」
「俺が相手でよかったなあ、ってこった」

 小さな笑い声が、耳に触れる。
 「アッシュみたいなのじゃあ、部屋から出られなかったかもしれないぜ」と、軽口を叩きながらも、ユーリスさんの手はわたしの服を確実に素早く剥ぎ取っていく。ものすごく手慣れている。

 ふいに、ユーリスさんの柔らかい唇が耳を食んだ。ひ、と小さな悲鳴を漏らして、わたしは首を竦める。耳元でユーリスさんが笑うから、その吐息がくすぐったい。
 顎先を掴んだユーリスさんに顔を覗き込まれる。わたしは恐る恐る視線を上げて、菫色の瞳を見つめ返した。

「なんだ、相変わらずの鉄仮面か」

 つまらなそうに吐き捨てたその唇が、わたしの唇を覆った。反射的に結んだ唇を舌先でこじ開けられて、容易く侵入を許してしまう。つい、奥へと引っ込めた舌を、ユーリスさんの舌が追いかけてくる。

「ふ、っ……」

 舌先が触れあうと、ちゅうと吸いつかれる。唾液にまみれた舌が絡みついて、離れていかない。
 拙い呼吸のせいで次第に息苦しくなってくるが、ユーリスさんはお見通しとばかりにタイミングよく一度唇を離してから、角度を変えて再びキスをしてくれる。とろり、と唾液が口に流し込まれて、飲み込み切れずに唇の端を伝い落ちていくのがわかった。
 ユーリスさんの指先がそれを拭う、というよりも、肌に塗り広げるように顎を撫でる。

 その指が、喉元を通って鎖骨をいたずらに撫でたかと思えば、いつの間にか下着だけになっていた胸元へと到達した。かり、と指先で引っかくようにして下着をずらし、隠れていた膨らみと乳首をあらわにする。
 その手を止めるわけにはいかず、わたしはシーツをぎゅっと握りしめた。

「っは、あ」

 ぺろ、と下唇の表面をひと舐めして、ユーリスさんの唇が離れていく。固く閉じていた目を開ければ、妖艶に微笑むユーリスさんのお顔がすぐそこにあった。少し長いユーリスさんの髪の毛が、さらりと肌を撫でる。

「その鉄仮面、剥がしてやろうじゃねえか」

 凄んだその顔もまた、びっくりするほど美しかった。



 優しく膨らみをすくい上げたその手を見つめて、ユーリスさんは指の先まで美しいことに気づく。考えれば考えるほど、妙な組み合わせである。気おくれした気持ちになるばかりなので、わたしはユーリスさんから目を逸らした。
 首筋に、ユーリスさんの唇が触れる。
 とくとくと脈打つ頸動脈に舌を這わせて、戯れのように軽く歯を押し当てる。びくり、と身体が跳ねた。

「んっ……」

 震えた喉に、ユーリスさんの唇が強めに吸いついた。「えっ」と、わたしは思わずユーリスさんを見やった。そんな目立つところに痕をつけられては困るのに。ユーリスさんは器用に、瞳だけで笑った。

 わたしの視線をものともせずに、ユーリスさんの唇はあちこちに吸いついては、少しの痛みを残すそこに舌を這わせた。そのたびにぞわりとした甘い痺れが走って、わたしは首を竦める。
 やわやわと、ほとんど触れるだけだったその手が、ふいにぎゅっと強めに胸を揉んだ。

「っあ……!」

 痛い、わけではなかった。
 浮き上がった背中に素早く手を差し込むと、ユーリスさんは下着のホックを片手で外してしまう。締めつけがなくなって、ブラが浮く。わずかに隠れていた部分がなくなって、胸が完全にさらけ出されてしまった。
 ユーリスさんの唇が、胸の上部に吸いつく。ふるり、と身体の震えと一緒に胸が揺れた。

 ちくりと鋭い痛みが走ったところを、生ぬるい舌が舐めた。痛みはすぐに、気持ちよさへと変わっていくのだから、驚きである。
 その舌は肌から離れることなく、少し下のほうへとずれて、乳首へとたどり着いた。ユーリスさんが尖らせた舌先で先端を突いて、ぱくりと口に含む。にゅるり、と舌全体が乳首を押しつぶした。

「あっ、ぅん……ン」

 もう片方の胸には、ユーリスさんの手が置かれている。ゆっくりと乳輪を撫でた指先が、ぷくりと立ち上がる乳首を摘まみあげた。両方の胸を同時に刺激されて、わたしの唇からは震えた吐息が漏れ出る。
 軽く歯を押し当てられて、また違った刺激に「っひ、」と悲鳴じみた声が上がってしまった。

「いい反応」

 ユーリスさんが小さく呟く。わたしがなにか反応するより早く、再び乳首を口に含んだ。びくっ、と身体が大げさなくらいに震えた。
 与え続けられる愛撫のせいで、頭がふわふわしてくる。だから、ユーリスさんの片手が下腹部に伸びていたことに少しも気づかなかった。閉じていた脚を割り開かれて、はっとする。内腿に力を入れようとしてもすでに遅かった。

「ゆ、リスさ……」
「濡れてるな」

 下着の中心を指先が撫でて、ユーリスさんが笑う。言葉にされなくたってわかっていた。恥ずかしくて堪らないのに、わたしの表情筋は動かない。顔に熱は集まっていないだろうか、とわたしは頬に手をあてた。チベットスナギツネが頬を赤らめていたら、これ以上ないほどシュールだ。わたしなら萎える。
 けれど、ユーリスさんは白けた顔のひとつもせずに、わたしを見つめて目を細めた。

「え」

 我ながら間抜けな声だ。
 美しいかんばせは、ちゅっとお腹に口づけをひとつ落としてから、わたしの脚の間へと消えた。まさか、と思ってわたしは慌てて内腿を閉じるが、ユーリスさんの両手がそれを容易く防ぐ。むしろ、左右に割り開いてくるではないか。細身に見えるのに力が強い。

「ゆ、ユーリスさん、待っ」

 わたしは少し上体を起こして、ユーリスさんに向かって手を伸ばした。止めなくては。しかし、その思いも虚しく、ユーリスさんは見せつけるように赤い舌を覗かせて──下着をわずかばかりにずらすと、割れ目をべろりと舐め上げた。

 なにをしているのだろうか。
 いや、なにをしているのかはわかる。けれども、わたしの脳みそは理解を拒んだ。混乱しすぎて、ますますスン……と、わたしの顔から表情が消える。ぽすん、と上半身をベッドに戻して、わたしは両手で顔を覆った。
 ちゅうと唇全体が秘部に触れたかと思えば、角度を変えて何度も舌が上下する。顔はこうでも身体は素直に反応して、わたしの口からは悲鳴にも似た嬌声がこぼれてゆく。ぞくぞくして、自然に跳ねてしまう腰を、ユーリスさんが抱えるようにして固定した。

「ンっ、あ、あぁッ……」

 固く尖らせた舌先を割れ目にねじ込みながら、ユーリスさんの指先が陰核を撫でた。ぎゅう、と熱くて柔らかい舌を膣壁が勝手に締めつける。ユーリスさんは、狭まったそのなかをほぐすように、舌先でくにゅくにゅと膣壁を押してくる。
 奥からあふれてきた愛液がユーリスさんの唾液と混じって、お尻のほうまで垂れていくのを感じる。じゅるり、とわざと音を立てて、ユーリスさんがそれをすすった。

「い、や……っ」

 わたしは顔を隠したまま、首を横に振った。でも、ユーリスさんの攻めは少しも緩まない。
 優しく皮をむき、顔を覗かせた陰核に、ユーリスさんの唇がそうっと触れる。それと同時に、人差し指が秘部へと差し込まれた。

「あ! あっ、あ、ああッ」

 それほど広くはない部屋に、わたしの甲高い声が響く。体中の神経がそこに集中してしまったかと思うほど敏感な陰核を、執拗に舐められて声がちっとも抑えられないのだ。ユーリスさんの愛撫は単調じゃないから、刺激に慣れることもない。軽く口づけるように吸いつかれ、舌先で突かれ、チロチロと舐め上げられる。
 なかに埋められた指がくいっと曲げられた瞬間「っひう!」と、ひと際大きな声が漏れてしまった。
 わたしは恐る恐るユーリスさんに視線を向けた。菫色の瞳が挑発的にわたしを見て「ふーん」と、可笑しそうに呟く。

 制止の言葉を紡ごうとした口からは嬌声ばかりが出て、だらしなく開く唇の端から唾液が伝い落ちていく。
 指の腹が優しく、けれど執拗にそこを擦って、唇は相も変わらず陰核を刺激し続ける。軽く、ほんの軽く、ユーリスさんの歯が陰核に押しあてられた。

「ぅ、や、ぁあっやァっ!」

 嬲られる秘部がジンジンと痺れて、お腹の奥にたまった熱が弾けた。二本に増やされていた指を、蠢く膣壁がぎゅっぎゅっと締めつける。びくびくと震える内ももへ、ユーリスさんが優しくキスをくれる。達したばかりの身体はそれすら気持ちよくて、わたしは小さく喘いで身を捩った。
 ユーリスさんが口元を手の甲で拭いながら、身体を起こした。そうして、わたしの両手をシーツへと縫いつける。

「……?」
「……顔と反応があってない」

 ユーリスさんが不満げに柳眉を跳ね上げる。そんなこと言われたって。
 小さくため息を吐いたユーリスさんは、べちゃべちゃになった下着をさっと脱がせてあたりに放った。それをぼんやり見ていると、ユーリスさんは呆れた顔をしながら親指の腹でわたしの口の端についた唾液を拭った。かと思えば、その指を口の中へと押し込んでくる。

「んぅ」

 ぐに、と頬を内側から押される。歯列をなぞった指が、舌を挟み込んだ。にゅるん、と唾液で滑るその指の感触が、達した余韻を長引かせるのか、身体が震える。
 口から引き抜かれた指先は、当たり前だけれどわたしの唾液にまみれていた。

「ま、時間はたっぷりある」
「……さっさと済ませるんじゃなかったんですか」

 わたしが憎まれ口を叩けば「気が変わった」と、ユーリスさんは事もなげに告げた。
 ぺろ、と濡れた指先に舌を這わせるその姿は、ひどく蠱惑的だ。はっきり言って、わたしよりもよほどセクシーである。にや、とユーリスさんの唇が弧を描く。

「寝かせないぜ?」

 なんてな、とユーリスさんは大口を開けて笑った。ユーリスさんのそんな顔を見るのは初めてだった。その笑い声のおかげで、わたしはこの部屋に入ってようやく、少しだけ肩の力を抜くことができた。表情筋がほんのわずかに緩む。

「……、」
「は、はい」

 くい、と顎を掴まれて、顔を覗き込まれる。菫色の瞳にじっと見つめられて、わたしは慌てて目を伏せた。どぎまぎするのと同時に、身体に熱が戻ってくる。
 しばらくわたしを見つめていたユーリスさんだったが、諦めたように小さく鼻を鳴らして、顎から手を離した。

 首元に落ちた手が、触れるか触れないか、絶妙な加減で肌を撫でる。
 そうしながら、ユーリスさんは自身の服へと手をかけた。真っ白のマントと一緒に、いかつい鎖がジャラリと音を立てて床に落ちていく。片手だけでボタンを外してゆく傍ら、わたしの肌を撫でる手は止まらない。膨らみの上で、中心を避けながら指先がくるりと円を描く。

「っは、ぅ」

 ぴたりと合わせた太ももを、とろりと愛液が伝う。わたしは期待してしまっている。
 ちら、とユーリスさんを見る。彼の上半身が惜しげもなく晒されていた。華奢で肌が白く、女性と見まごう美しさでありながら、薄らと腹筋が浮き出ている。腹部へ落した視線が、思わずさらに下へと落ちてしまう。

 なお、ゴムは口でつけること。
 わけのわからないその一文が頭を過ぎる。ズボンの上からでは、ユーリスさんが勃起しているか判別がつかなかった。
 わたしの視線に気づいたのか、ユーリスさんが小さく笑って、ズボンのベルトを外して前を寛げた。慌てて目を閉じると、ユーリスさんはあろうことか、わたしの手をそこへと持っていった。下着越しに硬い存在を感じる。

「ほら、勃っちまったぜ?」

 ユーリスさんの手が重なって、手のひらをぎゅっとそこに押しつけてくる。わたしは「た、勃っちゃったんですか……」と、呆然と呟くことしかできなかった。


 ご丁寧に、枕元に用意されていたゴムを手にする。まったく経験がないわけではないが、それほど慣れているというわけでもなく、ゴムを口でつけるなんて経験はないのだ。うまくできるか心配である。

 わたしは裏表をきちんと確認してから、ゴムを唇で咥える。
 ベッドに座るユーリスさんは、わたしを興味深げに見下ろしていた。四つん這いの格好で近づいて、頭をわずかに下げるとユーリスさんのものが眼前に迫る。目を背けたくなるが、それではゴムをつけることなど不可能だ。わたしは意を決し、陰茎に右手を添えて、ゴムごと唇を先端へとくっつける。
 そうして、唇をすぼめながら亀頭を口に含んだ。ゆっくりと陰茎を口に入れながら、ゴムのくるくるを広げていく。唾液がたらりとこぼれてくるけれど、そんなことを気にする余裕はなかった。

「んん、ン……っ」

 ぷは、と息を吐いて唇を離す。ゴムに覆われた先端から、唾液の糸がつーっと伝って、途切れた。
 最後に、指先でゴムを根元まで引っぱる。ちゃんと装着していないと、途中で取れたり破けたりしてしまう。手の中で、ぴくんと陰茎が反応した。わたしは顔をあげる。

「……視覚的にくるものがあるな」
「え?」
「いいや、なんでも。これでお終いか?」
「あ、はい、たぶん大丈夫かと」

 よし、と頷いたユーリスさんは、わたしの首根っこを押さえて背後へと回った。「え」と、戸惑いの声を上げるわたしのことなどお構いなしに、ユーリスさんの手が尻肉を掴んだ。
 えっ、まさか、この格好のまま──
 くちゅ、と先端が秘部の入り口に触れた。ぎくりと身体が強張る。

、力抜けって」

 ふー、とユーリスさんの吐息が背中を撫でて、ぞわぞわが腰のあたりから首元へと駆け抜けた。首を押さえつけていた指先が、ふわふわとした優しいタッチで身体の輪郭をなぞる。
 ふにゃりと身体から力が抜けるのと同時に、亀頭が秘部へと押し込まれた。

「あッ……!」

 わたしのなかは、わたしの意思なんかと関係なく、ユーリスさんをすんなりと受け入れて飲み込んでいく。

「は……熱いな、のなか」

 落ちてくるユーリスさんの声は、かすかに上ずっていた。
 ちゅ、ちゅ、と肩甲骨や背中の中心にキスをしながら、ユーリスさんはゆっくりと陰茎を埋めていく。こちらを十分に気遣った挿入のおかげで、痛みも苦しさもなく、あるのは気持ちよさだけだった。

 ぎゅ、とシーツを握りしめるわたしの手にユーリスさんの手が重なって、指が絡められた。
 背に流れる髪を指先で払いのけて、むき出しのうなじにユーリスさんがキスマークをつける。またそんなところに、と思うけれど、咎める言葉を紡げるわけもなく口からは嬌声が迸るばかりである。かり、と浮き出た肩甲骨に歯が立てられて、わたしは背をのけ反らせた。

「あっ、あ、ぁうッん、はあっ」

 ぷるんと揺れた胸を鷲掴み、指で乳首を挟み込んだ。固く尖ったその先端を、指先がかりかりと引っかく。

「ッぅう、ふうっ、あ」

 その手が下腹部へと伸び、ぐっと子宮のあたりを押さえつけて、ユーリスさんは後ろから抉るように抽挿を繰り返す。激しい動きではないぶん、出し入れされるたびに膣壁を擦られるのが、よくわかる。わかってしまう。
 とん、と子宮をノックするように押し上げられると、立てた膝が崩れてしまいそうなほどに気持ちがいい。ぶるぶると震える脚に気づいてか、ユーリスさんがわたしを完全にうつぶせにさせた。一度抜かれた陰茎がまた入ってくる。体位が変わったことにより深い挿入はできないみたいだったが、先ほどは触れなかったところを掠めて、ぞわぁっと快感が背筋を突き抜けた。

「っ、締まる……」
「そっ、こぉ……ぁッひ、だ、め……!」
「だめじゃなくて、いいだろ?」

 ユーリスさんが可笑しそうに言って、耳朶に噛みついた。それはそう、そうなんだけど、わたしはわけもわからず首を横に振った。
 ユーリスさんの笑い声が耳に触れる。ぐり、と抉るような動きで、先端がそこを擦った。

「ぁ……ァあ……っ!」

 わたしは喉の奥から掠れた声を漏らしながら、びくびくと身体を震わせて達した。だというのに、ユーリスさんは止まるどころか動きを緩めることもない。
 痙攣する膣内を味わうみたいに抉じ開けて、ごりごりと執拗にそこばかりを擦られる。イった感覚が引いていかなくて、わたしはもはや自分がどういう状態なのかもわからない。過ぎる快楽に視界が白む。



 名を呼ばれたことにおぼろげながら気づいて、わたしはユーリスさんを振り返った。「いま、自分がどんな顔かわかるか?」と、ユーリスさんはふふんと笑う。
 ユーリスさんの言葉がうまく頭に入ってこなくて、わたしはただ瞬きを繰り返した。

「ははっ、ほんとに俺が相手でよかったなあ」

 嬉しそうな顔が近づいてきて、唇が重なる。絡まる舌に応えることができずに、わたしはだらしなく口を開いて、ユーリスさんを受け入れる。唾液が顎先を伝って、シーツを濡らした。

 ユーリスさんはわたしの腰を持ち上げると、ガツガツと腰を打ちつけた。終わりに向かっているのだとわかるが、その激しさにわたしはついていけなかった。

「っあぁ! ァあ……ッぁあ、ヒ──ぁッ!」

 真っ白な視界に星が弾ける。絶頂に身を震わせるわたしを、ユーリスさんが後ろから抱きすくめる。

「ッは、出すぜ、……!」

 最奥を押し上げた陰茎がびくびくと震える。吐き出された精液は、ゴムが受け止めてくれたはずだ。

 限界だったわたしの膝がくずおれて、脱力したユーリスさんが覆いかぶさってくる。しかし、潰れないように配慮してくれているらしく、重さは感じなかった。
 頬を撫でる指の感触に目を開ければ、菫色の瞳がすぐそこにあった。

「……ユーリス、さん」

 わたしの声は掠れていた。ユーリスさんは少しだけ眉尻を下げて、「悪い、無理させたな」と優しく笑んだ。わたしはかぶりを振る。

「馬鹿。少しは怒れ」

 ユーリスさんが困ったふうに言うから、わたしはますます怒ったり責めたりする気が失せてしまう。誰が悪いとかではないし。
 ああそうだ、ゴムの処理をしなければ。わたしは緩慢な動きで、ユーリスさんのものへと手を伸ばした。少し焦ったようなユーリスさんを不思議に思いながら、役目を終えたゴムを陰茎から外す。ゴムを知らないユーリスさんに代わって、わたしが後始末をするのは当然なのに。精液の溜まったゴムの口をきゅ、と縛る。

「……やらしい」

 ぽつり、と落ちた呟きに顔をあげる。ユーリスさんの頬に赤みが差していた。

「な、や、やらしくないです」
「どうだか」
「ゆ、ユーリスさん」
「ゴム、ってまだあったか?」

 朝ごはん何、みたいに言うので、わたしは一瞬問われた意味が理解できなかった。「便利なもんだなあ」と、ユーリスさんは怪しく微笑む。やらしいのはどっちだ。

朝までエスコート

(寝かせない / ゴム / 勃っちゃった)