ツイステッドワンダーランドでは、ときに摩訶不思議なことが起こる。
 ひとつだけあるドアは開けることも、破壊することも叶わない。は眉間を指先で押さえて、深くため息を吐いた。部屋をくまなく見て回っていたシルバーが「先生?」と、こちらを振り返った。いつもの仏頂面ながら、気遣わしげな顔をしている。

「いや、うん。大丈夫……」
「先生、俺たちはこの部屋に閉じ込められたんだろうか」
「残念ながら、そうみたい」

 シルバーが神妙に頷いている。
 このナイトレイブンカレッジにおいて、彼はずいぶんと素直な生徒である。実を言えば、この小さな部屋でシルバーを見つけたとき、は安堵を覚えたのだ。クルーウェルやフロイドではなくてよかった、と心底思う。
 「流石先生、落ち着いている」と何やら感心しているシルバーを呼び寄せて、ドアの前に立つ。

 つるりとした真っ黒なドアに、手のひらを置く。不思議そうに瞳を瞬きながらシルバーも手を伸ばせば、ふわりと文字が浮かび上がった。
 SEXしないと出られません。
 シルバーの指がその文字をなぞり、オーロラの瞳が戸惑いをもってを見た。

「……そういうことです」

 自身、まったくもって納得いかなかったが、そう告げる他なかった。


 部屋の中央には、これみよがしにベッドが置かれていた。腹が立つことこの上ないが、立ち尽くしていてもどうしようもない。意を決してベッドへと足を踏み出したを、シルバーがひょいと横抱きにした。

「えっ」

 思わず間抜けな声を上げながらも、は慌ててシルバーの首に抱きついた。落とされてはたまらないと思っての行動だったが、意外にもがっしりとした体形をしていることが、触れてみてわかった。
 シルバーは、そのまますたすたとベッドまで近づいて、やけに恭しい仕草でシーツの上へとを寝かせた。それはシルバーの美麗さも相まって、まるで物語に出てくる王子や騎士のようだった。

 目を白黒させるを見つめて、シルバーが首を傾げる。

「何かおかしいだろうか」
「あ、その……驚いただけ……」
「すまない、声をかけるべきだった。不手際があれば、遠慮なく指摘してほしい」

 その真面目な物言いは、まるで授業を行なっているような錯覚をに与えたが、シルバーの手が迷うことなく胸元のボタンへと伸びてくる。
 ぷち、と無骨な指先がひとつひとつ、丁寧に外していく。
 すべてのボタンを外し終えて、白衣とシャツを脱がすべくシルバーの手が、の肩に触れた。壊れものを扱うような慎重さがそこにはあった。する、と布が肌を滑る感触が、すぐに止まる。

「……先生、寒いのか?」

 の身体の震えを感じとって、シルバーが真面目くさった顔で尋ねた。は思わずぽかんとその顔を見つめたのち、小さく笑った。

「ううん、大丈夫」

 かぶりを振って答えると、シルバーがわずかに表情を緩めた。
 の袖を抜くのと同時に、背中をわずかに浮かせていた手が白衣とシャツを掴みながら離れていく。シルバーが、ジャケットとベストをさっと脱ぎ捨てて、ネクタイを緩めた。妙に色気のある仕草だった。ボタンの閉め切られていないシャツの隙間から、喉元があらわになる。

 くっきりと浮き出た喉仏と鎖骨から、は慌てて目を逸らした。急にシルバーが、生徒ではなく男に見えたのである。

「ん……」

 キャミソールの中へと入り込んだシルバーの手が、のお腹に触れる。冷たいわけではなかったが、硬い指の感触に思わず声が漏れた。オーロラの瞳が、をじっと見つめている。じわじわと顔に熱が集まっていくのがわかる。

「先生」
「……な、なに?」
「キスはしてもいいのだろうか」
「え?」

 ──キス。
 はぱちぱち、と瞳を瞬いて、その言葉を紡いだ唇を見た。薄すぎず厚すぎず、形のよい唇だ。

「……ど、どうぞ」

 いい大人がキスの一つや二つで喚くのもどうかな、とは目を閉じて唇を差し出した。近づく気配がして、柔らかい感触が唇に触れる。
 ちら、と薄目を開けて様子を窺えば、驚くほど長い睫毛が至近距離にあった。

「っ、」

 唇が離れていかない。そう思った瞬間、開いた口がはむとの唇をやわく食んだ。びくりと身体が震えたからか、唇の表面をひと舐めして、シルバーが距離をとった。じ、と見下ろすその視線は、の反応を窺っているだけだとわかっている。その先に進んでいいのか否か、シルバーは迷っている。
 キャミソールの中の手も、みぞおちあたりで止まったままだ。

「シルバー」

 が、迷わせてしまっている。

 はシルバーの頬に手を伸ばすと、自ら唇を重ねた。舌を差し込もうとしたのはだったはずなのに、開いた唇の隙間にシルバーの舌先がねじ込まれる。伸ばしていたの舌を絡めとりながら、シルバーの指先がみぞおちを上っていく。
 下着をわずかにずらして、露出したふくらみにシルバーの手が触れる。
 柔らかさを確かめるように、優しくその手が胸全体を包んだ。やわやわと揉まれて、手の中で柔肉が形を変える。

「ん、っふ……」

 ぴくりと身体が跳ねるが、シルバーが先ほどのように距離をとることはなかった。
 にゅるり、と熱くぬめった舌が擦り合わされて、思わず鼻にかかった声が漏れ出てしまう。は、と短く息継ぎをしたシルバーが、角度を変えての唇に食らいついた。より深くへと入り込んだ舌が、の弱いところを探るように、口腔内を丹念に舐めまわす。
 激しい口づけに、は鼻での呼吸が間に合わなくなってくる。唇の端から、唾液があふれて伝い落ちていく。

 ただ揉むだけだったシルバーの手が、動きを変えた。
 長い指がぐっと沈んで、重なった唇の奥では小さく喘ぐ。広げられていた指先が肌を撫でながら握り込まれていって、胸の中心を摘まみ上げた。

「ぁ、んっ!」

 甲高い声が漏れて、びくりと背が弓なりに反る。浮きあがった背に手を差し込んだシルバーが、器用に片手で下着のホックを外してしまった。そのまま力の抜けたの身体を抱き起こすと、キャミソールとブラジャーを脱がせる。上半身を覆うものがなくなって、は心許なさを覚える。
 ふにゃりと下がった眉尻を見て、シルバーが困ったような顔をしてこめかみに唇を寄せた。

「嫌なことがあれば、殴ってくれて構わない」
「…………いやじゃ、ない」

 絞りだしたその声に、シルバーが瞠目する。「そうか」と、シルバーがほっと息を吐いて、微笑んだ。

 そんな顔もできるのか。がまじまじとその顔を見つめる中、シルバーは自身のネクタイとシャツも脱ぎ去った。制服の上からではわからなかったが、現れた肉体は鍛え抜かれていた。マレウスの護衛を務めるだけはある。
 綺麗な顔が再び近づいてきて、唇が重なる。

 舌を絡ませたまま、シルバーがの背中を支えながら、優しくベッドへと押し倒した。器用だし、紳士的である。落ち着いている、とシルバーは言ったけれど、にしてみれば彼のほうがよほど落ち着いていて冷静だ。

「ふっ……ぅ、んぁ……」

 シーツに投げ出されたの手を、シルバーの手がぎゅっと握った。
 そして、もう一方の手は、曝け出された胸元へと伸びる。下から持ち上げて離すと、ふるんと乳房が揺れた。つんと立ち上がった先端を、シルバーの掌が捏ねるように押し潰す。

「ふぁんッ」

 大きくない部屋に、甘ったるい声が反響する。
 の唇を解放したシルバーが、ちゅ、ちゅ、と頬や顎先にキスを落としながら胸元へと迫っていく。吐息がふくらみに触れて、ぴくりと身体に緊張が走った。形のよい唇が開いて、乳首がその中へと消えていく。
 指とも手のひらとも違う刺激に襲われ、思わず身を捩るが、重なったシルバーの手がぎゅうとを押さえつける。

「っひ、あ、っくぅ……っんん」

 シルバーの舌先が先端を確かめるようにつついてから、べろりと舌全体で舐め上げる。ぞわ、と肌が粟立つ感覚が乳首から広がって、それが下腹部へと集まっていく。小さく身体が跳ねてしまって、口に含まれた乳首が歯に擦れた。
 ぐ、とは無意識のうちに絡まった指を握り返す。その反応をいいと捉えたのか、シルバーが乳首を甘噛みした。

「ああっ……!」

 視線を感じて、は恐る恐る胸元を見やった。銀色の睫毛に縁どられた瞳は、明るい照明の光を受けて、美しく色が揺らめいていた。途端に、何だかすごくいけないことをしているような気になって、は視線を逸らした。実際、いけないことはしているのだが、綺麗な顔が自分の胸元にあるのを見て急に背徳感が増大した。
 の内心など知らずに、シルバーが再び目を伏せる。

 今度は反対側の胸へと吸いついて、口を離したばかりのほうへと指を伸ばす。かり、と爪でひっかくように乳首を刺激して、濡れた尖りを指で摘まんで擦り上げる。口内のもう一方も、歯を押し当てたり、舌で舐め上げたり絶えず刺激を与えてくる。

「あ、あ、っはァ」

 びく、と腰が跳ねる。は知らず、もぞりと脚を動かした。
 シルバーがゆっくりと唇を離し、一度身を起こした。は顔を見られないように、手の甲でで目元を覆った。目を合わせられない。ふ、とかすかに笑う気配があって、手のひらにシルバーの唇が小さく触れた。


 その唇は、下へ下へとおりていって、臍のくぼみに舌を這わせた。
 カチャ、と小さく音を立てながら、シルバーがのベルトの留め具を外し、ボタンとファスナーも開けてしまう。がわずかに腰を浮かせれば、下着も一緒にズボンを下ろされる。
 は驚きと羞恥で慌てて両手でそこを押さえた。図らずもシルバーと目が合って、はぎゅっと目を瞑った。

「すまない」
「あっ、え──っひゃう!」

 ひと際大きな声が部屋に響いた。
 閉じようと力を込めた内ももを押し開いて、シルバーが秘裂を舐め上げたのだ。混乱しながら止めようと伸ばした手は、指を絡められて制止の意味をなさない。

 とろりと奥からあふれてくる愛液を舌先で掬い、膨らんだ陰核に塗り広げていく。待ち望んでいた刺激につま先が跳ねる。絡んだ指先を、は縋るように握りしめた。
 シルバーの顔はそこから離れる気配がない。柔らかいひだを舌でなぞり、にゅぷりと濡れそぼったそこへ舌先をねじ込む。

「ぅあっ、あ、アぁ、あっ」

 反射的に逃げようとする腰を掴まれて、引き寄せられる。ぴたりと入口にくっついた唇が、じゅるりと音を立てて愛液を啜る。濡れた陰核をシルバーの指先が優しく擦り上げるので、は喉をのけ反らして啼いた。
 くちゅ。
 陰核を人差し指で撫でながら、親指の先がぬかるみに沈む。震える内ももにシルバーの唇が触れた。

「や、シル、ばぁ……そんな、こと」

 の途切れ途切れの声を聞き洩らすことなく、シルバーが股の間から顔をあげた。

「しっかり準備しなければ、つらいのは先生だ」
「……?」
「その……俺は、人よりも少々、大きいらしい」
「おおきい……」

 がおうむ返しに呟けば、この部屋に入って初めて、シルバーが恥じらうような顔をした。うまく動いてくれない頭がその言葉を理解したときには、シルバーの顔は再び秘部に向いていた。

 指先にたっぷりと愛液をまとわせて、中指がなかへと埋め込まれていく。剣を握るその指は長くて、少し節ばっていて、存在感があった。
 膣壁を押しながらぐるりと指が円を描く。
 は決して経験豊富ではないが、初めてではない。シルバーとて、それは理解しているはずである。大きい。まだ見ぬシルバーのそれを想像してしまって、ぎゅっと指を締めつける。

「ん、う……っ」

 何度か優しく抜き差ししてから、指を一本増やされる。にゅるりと入り込んだ指がゆっくりと膣を押し広げていく。
 ちゅっ、とふいに陰核に吸いつかれて、は腰を跳ね上げた。二本の指を丁寧に動かしながら、シルバーが舌を尖らせながら陰核を優しくつつく。敏感なそこを執拗なまでに舐められて、の身体がびくっびくっと揺れる。熱い疼きがお腹の奥底へと溜まって、弾けた。

「あ、あっ、あぁっ……ひっ、ぅ……んんっ!」

 達したは、意図せずぎゅうぎゅうと二本の指を締めつけた。ぴたりと止まっていた指の動きが、少しの間を置いて再開される。とろ、とあふれた愛液がお尻のほうへと伝い落ちていく。

「っは、ぁ、あ」

 指を埋めたまま、シルバーがべろりと大陰唇を下から上へと舐め上げる。ぞわっと、腰から背筋を官能が駆け上って、は小さく身を捩った。
 ひくひくと震える秘部に、三本目の指がゆっくりと沈められていく。

「ふ、は、んん……」

 流石に苦しさを感じて、は眉をひそめた。
 三本の指がぱっと開かれたかと思えば、ぐっとなかで折り曲げられる。熱くうねるひだの、腹部側を指の腹でクイクイっと刺激されると、引いたはずの官能の波がまたを呑み込もうとする。
 繋がったままの手にぐっと爪を立ててしまいそうになって、は咄嗟に反対の手でシーツを握りしめた。

 シルバーが足の付け根に口づけて、ふーっと指を飲み込む秘部に息を吹きかけた。そうして、ぷくりと尖った陰核を親指の腹が優しく押しつぶす。くりくりと捏ねるような動きをされて、血液がそこに集まっていくのを感じた。ジンジンと痺れるのが陰核なのか、秘部なのかわからない。わからないまま、はただのぼり詰める。

「ぅ、や、ぁ、ぁあっやぁっ!」

 気がつけば、シルバーの手の甲に爪が食い込んでいた。は慌てて力を緩め、手を離そうとしたが、シルバーの指が絡まってほどけない。

 くちゅりと指を引き抜いたシルバーが、濡れた指先でパクパクする割れ目を上下に撫でた。
 達した余韻に、身体がぶるりと痙攣する。

「っぁん、は、ねぇもう……」

 十分とは思うのに、蕩けきったその入り口をシルバーがキスで塞いだ。柔らかい舌が先端を尖らせながら、にゅぐぐと入り込んでくる。指とは異なる感触が、膣壁を押してのなかで動きまわる。
 びくびくと揺れる腰を押さえて、シルバーのよく通った鼻筋が、つんつんと陰核を刺激してくる。
 の唇から漏れるのは、意味のない、艶めいた嬌声ばかりだ。

 シルバーが啜っても啜っても、奥からとろりと愛液がこぼれて、止まることを知らない。シルバーの唾液と混じった愛液が、シーツを濡らしていく。
 ちゅう、と陰核に吸いつかれて、は甲高い声を上げながら絶頂してしまった。



 はあはあと息を荒くするを宥めるように、腹部を優しく撫でながらシルバーが上体を起こした。ほとんど間を置かず三回ものぼり詰めた身体は、どこを触れられても敏感に反応してしまって、は「ン、やぁ」とシルバーの手を払った。

「す、すまない」
「……ううん」

 何だか、謝らせてばかりである。
 シルバーが戸惑いがちに、自身のベルトへ手をかけた。カチャカチャという音がやんで、ドロドロのそこへと先端が添えられる。は反射的に、わずかに身を起こして視線を向けた。

「っ、」
「……ゆっくりする」
「う、うん」

 確かに、人よりも少々、大きいかもしれない。ご丁寧にも用意されていたゴムが、ずいぶんと窮屈そうである。
 ぐぷりと亀頭が押し込まれた。

 ──ガチャン。
 はっ、と息を呑む音が重なる。
 SEXしないと出られません、とドアに浮かび上がった文字が脳裏を過ぎる。挿入したことでSEXしたと、この部屋は判断したということだろう。

 はシルバーを見た。オーロラの瞳が見つめ返してくる。
 どうするべきかなんて、考えなくてもわかっていた。けれど、それでも、はぎゅっとシルバーのたくましい二の腕を掴んだ。

「も、だめ。ちゃんと挿れて、うごいて……」

 教師としてあるまじき発言である。シルバーの美しいかんばせがさっと紅潮して、視線が逸らされた。それは実に十七歳らしい顔だった。

「あまり、煽らないでくれ。自制が効かなくなる」


 少し入っては出て、また入るを繰り返し、ずぷんと秘部に亀頭が埋まった。大きい。十分にほぐされたはずなのに、あまりの圧迫感に、は大きく口を開けて喘ぐ。
 シルバーの手が頬に添えられ、人差し指がまなじりの涙を拭った。

先生、大丈夫か?」

 顔を覗き込まれて、は小さく頷く。ぐぐぐ、と腰を押し進めながら、頬に触れる手の親指がの口へと伸びた。唾液にまみれた唇の表面を優しくなぞり、口の中へと押し込まれる。
 は歯を立てないように気をつけながら、その指に舌を絡め、吸いついた。舌先に、シルバーの硬い指と、短く整えられた爪の感触がする。散々の秘部をいたぶったその指の表面が、ふやけてしまっていた。はその皺に丁寧に舌を這わせた。

 ぎゅ、とシルバーが眉間に皺を刻む。
 親指を口から引き抜くと、シルバーは唇を重ねてきた。だらしなく開いたままだった口の中へ、舌がねじ込まれる。

「んっ、う、んんん」

 舌が絡みついて、吸いつき、歯列をなぞる。
 ぐ、ぐ、ぐ、と少しずつ秘部を埋め尽くす質量が増していく。薄く開いた視界の向こう、オーロラ色がぼやけていて、シルバーが目を開けていると気づいた。「っふ、んむ」口端からあふれた唾液を、シルバーの舌先が舐め上げる。
 は、と大きく息を吸った唇に、シルバーが噛みつくような荒々しさをもって再び口づけた。

「んぅ……ッ」

 ミチミチミチ、と自分のなかを満たしていくのがわかる。はあっ、とシルバーの熱い吐息が唇に触れた。

「熱い、」

 シルバーの苦しげな呟きと同時に、汗がぽたりと降ってくる。
 自分ばかりが気持ちいいのではないのだと思うと、お腹の奥が疼いた。きゅん、と締めつけたせいで埋め込まれるその存在をより一層感じて、勝手に腹部に力が入る。「きつ……っ」と、シルバーのわずかに上ずった声が頬をかすめる。
 それでもシルバーは動きを止めることはなかった。

 太くて硬くて熱いそれがゆっくりとのなかへと飲み込まれて、その先端がこつりと最奥をノックした。びりびりと身体を走り抜けた電流のような衝撃に、は喉をのけ反らせた。

「ッあぁあッ!」
「っく……」

 すべてが入っただけである。ただ、それだけとは自身に言い聞かせるが、ぶわりと腹の奥底から広がっていく感覚を止めるすべなどなかった。

「やっ、う、ぁッ! あっ、ああァ!」

 たったの一突きであっけなく達して、は背を弓なりに反らしながら全身を打ち震わせた。
 ふっと弛緩した身体がシーツに沈む。汗で張りついたの前髪を、シルバーの指先が優しく浚った。「先生」と、その声は耳穴に直接吹き込まれた。ぶるりと大げさなほどに身体が震える。

「……動いてもいいだろうか」

 ぐ、とシルバーの手が腰を掴む。は熱に浮かされたまま、緩慢に頷いた。

 シルバーが腰の動きを再開させた。激しくはない。気を遣った優しい動きだ。けれど隙間なく埋まる陰茎がゴリゴリと膣壁を擦って、ぐちゅぐちゅと音がなるたびには身悶えする。
 ギリギリまで引き抜かれて圧迫感から解放される。が大きく息を吸うそのタイミングで、再び奥へと侵入してくる。そうしてひどく熱いその先端が、子宮口を優しく押し潰すのだ。何度かそれを繰り返されて、はまたのぼり詰めた。か細い悲鳴に似た嬌声が喉を震わせる。

「……やはり、苦しいか」
「ちが、ぅ、んん…………きもち、いい……」
「は?」

 シルバーが一瞬呆けた顔をしてから「だから、先生。煽らないでくれ」と、わずかに眉尻を下げた。

「あっ!?」

 膝裏を持ち上げられたと思えば、大きく足を広げられ、は驚きに目を見開いた。
 シルバーがのしかかるようにして、自身をまたのなかへと突き立てる。シルバーの顔には似つかわしくない、太くて硬い陰茎が、ぐぷぷと秘部へと飲み込まれていくのが見えた。はその暴力的な光景に、ぎゅっと目を瞑った。

「すこし、我慢して、くれ……っ」

 我慢。何を。
 の疑問はほとんど形にならずに、シルバーが与える快楽を受け入れるばかりだ。

「あ! ァ! ッああ!」

 が達したことには気づいているはずなのに、シルバーは少しも抽送を緩めない。
 痙攣する膣壁を抉りながら奥を叩きつける。あまりの快感に、のぼり詰めたところから戻りきれずに、視界がチカチカと煌めくような気がした。

「ヒッ、あっ、やぁあ! また、イっ……ッンうぅあァ!」
「はあ、ッは、く……」

 シルバーが小さく呻いて、ひと際深くまで自身を穿った。びくびくと跳ねる腰を押さえつけながら、ぐっぐっと小刻みに最奥を叩く。

「は……」

 ぎゅ、とシルバーのたくましい腕がを抱きしめる。ぴたりとくっついた汗ばんだ身体から、激しい鼓動が伝わってくる。は呼吸を荒げたまま、シルバーの首へ腕を回して、抱きしめ返した。



 を押しつぶさないようにしていたはずの身体から重みを感じて「シルバー?」と、その顔を覗き込んでぎょっとする。そこには恐ろしく美しい穏やかな寝顔があった。

「し、シルバー? 起きて、ねえ、ちょっと」

 背中を軽く叩いてみるも、シルバーが目を覚ます気配はない。
 腕の中から抜け出そうともがくが、背中に回った腕は外れてくれそうになければ、上にのしかかるシルバーを退かすこともできそうにない。

「ううう……重い、シルバー……っひ?」

 挿入されたままのそれが、まだ硬さを保っていることに気づいて、はぴたりと動きを止めた。
 もう身じろぎはしていないというのに、入ったままのなかがジンジンと熱を帯びていく。重くて、苦しくて──けれど、動いてしまえば、は達してしまうとわかっていた。ぴくぴくぴく、と膣壁が震えている。

「……っふ、ぅ…………」

 ぎゅとシルバーに抱きついて、はくすぶるその熱を逃そうと息を吐いた。

「ん……? せんせい」

 シルバーの瞳が開いて、そのオーロラにの顔が映る。
 身体を起こしたと同時に、挿入されていた陰茎が、ずりりと膣壁を擦った。

「っひゃうン! あっ、ひっ!」
「っ、」

 その刺激で達したを見下ろして──

「まだ、足りなかったのか?」

 の返事を待たずに、シルバーは腰を打ちつけた。違う、誤解だと言いたかったのに、の唇からは嬌声が漏れるばかりで、何ひとつつとして言葉になることはなかった。
 睨もうと向けた視線の先で、シルバーがふ、と笑みをこぼした。

「可愛いな、先生」

 あまりの破壊力に反射的に目を閉じたが、何の意味もなさなかった。頬に集まったはずの熱が、全身にぶわっとものすごい勢いで広がって、弾ける。
 もうどうにでもなれ、とはシルバーに身を委ねた。

肉の修惑しゅわく

(煽らないで / 喘ぐ / おおきい)