、気がついたのかい」

 やわらかい声が耳を撫でていく。
 ぼんやりとした視界をはっきりさせるために数度瞬きを繰り返せば、心配そうにこちらを覗き込むディルックさんの顔が見えた。ディルックさんの視線がさっとわたしの身体に走って「痛むところや、おかしなところはないか?」と、その声は先ほどと同様、やわらかい。

「いえ、なんともありません」
「……そうか」

 ディルックさんが小さく安堵のため息を漏らして、わたしを優しく起き上がらせる。やけに大きくてふかふかのベッドが、わたしの身体を受け止めていたようだった。
 ここは──

「アビス教団の仕業だろう」

 わたしの心を読んだように、ふん、と軽く鼻を鳴らしながらディルックさんが告げた。「僕たちもついさっき、気がついたんだ」と、ディルックさんが続ける。
 僕たち。すこし離れたところに、ガイアさんの姿があることに気づく。

「よう、

 街中で出会ったときのような気軽さをもって、ガイアさんが右手を上げた。ディルックさんがすこし、いや、かなり不快そうに眉をひそめる。わたしは眉尻をわずかに下げて、ガイアさんとディルックさんとを見やった。
 こんなところでまで、反目しないでほしい。

 ディルックさんはガイアさんに目を向けることもなく、わたしの手を取ってベッドから下ろしてくれる。実に貴公子らしい、恭しい仕草だった。

 あたりにさっと視線を巡らせば、どうやら出入口らしい扉があるようだった。
 わたしは冒険者協会の依頼を受けて、モンド周辺をうろつくアビスの魔術師を追っていた。ディルックさんとガイアさんと鉢合わせして、目的は同じと行動を共にしたことが、あだとなってしまったようである。別行動をとるべきだった、と後悔するも、遅すぎる。

「…………」

 ディルックさんがわたしとガイアさんを一瞥して、扉へと近づいていく。
 手袋に包まれたディルックさんの指先が、扉を撫でる。待っていました、とばかりに扉の上部に文字が浮かび上がった。わたしがそれを読み終えるよりも早く、ディルックさんは大剣を手にしていた。

「火炎よ──

 怒りと殺気まじりの呟きが、巻き上がる炎の音でかき消える。視界が赤く染まったが、熱さを感じなかったのは、わたしを引き寄せた伽羅色の腕のおかげだったのかもしれない。ディルックさんの元素爆発を受けてなお、傷ひとつない扉を見つめて、ガイアさんが可笑しそうに隻眼を細める。

「らしくないな、ディルック。少し落ち着いたらどうだ?」
「……この状況で?」

 地を這うような低い声だった。それはわたしに向けられたものではなかったが、自然と肩が跳ねる。

「むしろ、楽しむべきじゃないか。SEXしないと出られない部屋だなんて、面白い」

 とんでもない言葉が飛び出てきて、ぎょっとガイアさんを見てから、わたしは慌てて扉に目をやった。そこには確かに”SEXしないと出られない部屋”とあった。ご丁寧に、但し書きまである。”一人一回は絶頂すること”、”自慰は認めない”。「まあ」と、思わず驚きの声が漏れた唇を押さえる。
 ディルックさんが気の毒そうに顔を伏せるのに対し、ガイアさんはわたしの肩をぐっと抱き寄せた。
 わたしはガイアさんを見上げながら、内心で首を傾げる。三人で、いったいどうやって。困惑しながらディルックさんを見ても、わたしの疑問を解消してくれそうになかった。


 服にかけたわたしの手を「おっと」と、ガイアさんが止めた。

「男の楽しみを奪ってくれるなよ?」
「そういうもの……ですか?」

 よくわからないが、素直に手を下ろして身を任せることにする。ちら、とディルックさんを見やれば、彼はまだ扉を丹念に調べていた。

「……余所見するなよ」

 拗ねた声音と共に顎先を捉えられ、わたしはガイアさんと視線を合わせた。ふふん、と満足そうに笑みを零した彼は、指先を顎から喉へと滑らせる。猫をあやすような仕草がくすぐったくて、わたしは小さく身じろいだ。
 胸元の留め具が外されて、外套が床へと放られる。ガイアさんの指先が胸の膨らみに沿って、ぐっと沈んだ。

「んっ、」

 わたしの口から漏れた声は小さかったのだが、甲高かったせいか、あたりによく響いた。
 ディルックさんが振り向いて瞠目しているのがわかって、「あ、す、すみません」とわたしは反射的に謝罪を口にしていた。他の方法はないかと探ってくれているディルックさんに対して、とても失礼だし、気を散らせてしまっただろう。

「言ったそばからまた余所見か? ひどい奴だ」

 視線を遮ったガイアさんは、言葉のわりに面白がっている顔をしていた。軽薄な笑みをかたどるその唇が、わたしの唇を啄む。ガイアさん、と名前を呼ぼうと開いた口の隙間を縫って舌先がねじ込まれ、何ひとつとして音にはならなかった。
 ガイアさんのぼやける瞳に気がついてから、わたしは慌てて目を閉じた。

 視線を感じるのは、ガイアさんが目を開けたままだからだろうか。まさかディルックさんではないとは思うけれど、わたしに確認する勇気はなかった。
 一枚、また一枚と身に纏うものがなくなっていく。

 舌が絡みついて、擦り合わされる。呼吸が弾んでいくけれど、頭の芯がぼうっとするのは、息苦しさのせいではない。

「ん、ぅ……」

 重なった唇の向こう、くぐもった声が漏れる。それすらも呑み込むようにして、ガイアさんの唇が角度を変えてより深く重なった。奥へ奥へと入り込む舌が口蓋を撫でて、ぞわりと身体に震えが走る。同時に、ふにゃりと力が抜けて、思わずガイアさんに凭れてしまう。
 ガイアさんは、小さく笑ったみたいだった。

 胸を覆う下着を剥いで、ガイアさんはわたしの身体をベッドへ押し倒した。ふかふかのベッドが軋むことはなかった。わたしは慌てて、揺れた胸元を両手で隠す。

「おっと、出し惜しみか?」

 伽羅色の手が伸びて、わたしのスカートを捲り上げた。下着が丸見えである。
 脚の間にガイアさんが割り入っているので、閉じることもできない。得意げに口角を上げたガイアさんは、わたしの内腿をいやらしい手つきで撫でた。

「ガイア」

 傍らに立ったディルックさんは、とても冷ややかにガイアさんを見下ろしていた。だというのに、ガイアさんはにやにやと笑っている。

「どうした? 混ざる気になったのか」
「……っ、」

 ガイアさんの指先が、下着の中心を引っ掻く。わたしは唇を噛み締めた。

を辱めるのはやめるんだ」
「おいおい、まさか説教か? 冗談だろ?」
「僕は、こんな状況で冗談は言わない」
「ふぅん? 経験豊富な旦那様は、俺のやり方が気に入らないわけだ」

 かり、かり、と動き続ける指のせいで、二人の会話が頭に入ってこない。ディルックさんが怒っているのはわかる。

「まず、その手を止めろ」
「っふ……」

 ディルックさんがガイアさんの手を掴んで止める。その瞬間に漏れ出た声には、名残惜しさが滲んでいた。思わず、といったふうにディルックさんとガイアさんが顔を見合わせるなか、わたしは両手で顔を覆った。恥ずかしい。穴があったら入りたい。
 ごくり、と喉を鳴らしたのは誰だろうか。

「誘ってるのか?」

 伽羅色の指が絡んで、わたしの手をシーツに縫いつける。顔を覗き込まれてなお、わたしは目を伏せて視線を合わせなかった。合わせられない。

「……、いいのか」

 ディルックさんの声が近くで聞こえて、見れば彼は膝をついていた。わたしは、心配そうに曇るその瞳をそっと見つめ返して、頷く。

「ディルックさんとガイアさんなら、身を委ねられます」

 わたしは二人を信頼している。
 軽く瞠目したかと思えば、ディルックさんはさっと素早く片手で顔を覆い隠した。「すまない、都合良く解釈してしまいそうだ」と、小さく呟くディルックさんの耳が、わずかに赤い。

「まあ、都合よく……?」

 いまいち意味がわからず、首を傾げる。

「俺は、これ以上ない好機だと思っているぜ」

 ガイアさんが薄く笑って、わたしの頬に唇を落とした。ちゅ、と音を立てて離れたその唇はわたしの口元へと迫るが、立ち上がったディルックさんの手がガイアさんの身体を押しとどめた。

「……ああ、確かに。君のやり方は気に食わないな」

 ディルックさんの言葉を受けて、ガイアさんは軽く肩を竦めた。




 ディルックさんは普段、肌の露出が少ない。襟元まできちんと閉められているし、指の先まで手袋に覆われている。大剣を振り回しているのだから当然と言えば当然かもしれないが、服の下から現れた肉体は鍛え上げられたものだった。顔と同じように美しく均整の取れた身体は、戦いに身を置く者らしくいくつもの傷を刻んでいた。
 完璧な貴公子、なんて二つ名が霞んでしまいそうだ。
 思わず目についた傷跡に指を這わせば、その身がわずかに強張った。

「あ、すみませ──

 はっと我に返り、慌てて引っ込めようとした手を、ディルックさんにぎゅっと握られる。「構わないよ」と、わたしの手のひらを自ら肌に押し当てた。

「君の好きなように」
「えっ……」
「なら、こっちは俺だな? 目いっぱい可愛がってくれよ、

 すかさず反対の手をガイアさんにとられる。いつもよりもずっとはだけた胸元へわたしの手を滑らせて、ガイアさんが目を細める。
 細身に見えるガイアさんだけれど、騎士らしくしっかりと筋肉がついている。図らずも両手に花状態である。三人でするというのは、こういうことなのだろうか。戸惑っていると「うん? ああ、ここじゃあご不満だったかな?」と、ガイアさんはその手を下腹部のほうへと導いた。浮き出た腹筋の感触が、指先に触れる。

「ガイア……!」
「いちいちうるさい奴だな。まあいい、旦那様のやり方を拝見しようじゃないか」

 ガイアさんは肩に引っかかっていたシャツを放ると、わたしを後ろから抱きかかえた。素肌が密着して、ガイアさんの垂れた髪が肌をくすぐる。
 不服そうに小さく鼻を鳴らしたディルックさんが、わたしの正面へ回る。わたしはちら、とディルックさんを見上げて、すぐに目を伏せた。どこを見ればいいのかわからない。けれど、視線を下げても目に入るのは、スカートはおろか下着すらもなくなって防御力皆無の己の脚だけだ。ぴたりと揃えた膝を、ディルックさんの手がそうっと開かせる。

「っ……」

 あまりの恥ずかしさに耐えられず、わたしは目を瞑る。ふふ、とガイアさんの笑い声が耳元で聞こえて、音が直接脳に響くようだった。吐息が掠めた耳朶をぱくりと食まれて、わたしは小さく息を呑む。身じろぐと、お尻のあたりに硬い感触を覚えた。
 その感触から逃れようとすれば、それに気づいたガイアさんがぐっとわたしを抱き寄せた。偶然かわざとか、むにゅり、とガイアさんの手が乳房を捉える。

「や、ガイアさ……」
、こっちに集中して」

 やわらかい声は、わたしをたしなめていた。
 ディルックさんの唇が膝に触れ、内腿に触れる。わたしは恐る恐る目を開けた。ディルックさんはわたしと視線を合わせたまま、足の付け根に吸いついた。ちくりとした痛みが走る。

「あっ……」

 甲高い声が漏れた唇を片手で押さえれば、素早くガイアさんに捕らわれる。「声、我慢するなよ」と、ガイアさんの囁き声が耳に吹き込まれて、びくりと身体が跳ねた。ディルックさんがそれを見ている。その視線だけで、肌が焼けつくようだった。
 鬱血痕を撫でた指が、隠すものがない秘部へと伸びる。
 くちゅ。
 聞こえた粘着音に、耳を塞ぎたくなった。

 ディルックさんの指が上下するたびに、秘部がくちゅくちゅと音を立てる。ぺろ、と震える内腿をディルックさんが舐め上げて、挑発するようにわたしを上目遣いに見やった。薄く開かれた唇が向かう先を察して、わたしは悲鳴じみた声を上げた。

「ディルックさんっ、やだ、汚いです……!」
「君の身体に汚いところなんてないよ」

 ディルックさんの言葉が、くぐもって不明瞭になる。唇が、すでに秘部に触れていた。

──っあ、」

 先ほど内腿を舐めたとの同じように、舌が割れ目を這う。
 うそ、うそ、うそ。ディルックさんが。
 信じがたい光景に力が抜けて、ガイアさんに凭れる。後ろから伸びたガイアさんの手が、わたしの顎を掴んで振り向かせた。

「仕方ない、少し気を散らしてやろう」
「ん、むっ……ふ、ぁ……」

 ガイアさんに唇を奪われる。ディルックさんが小さく舌打ちしたような気がしたけれど、確かめるすべはない。
 互いの唾液にまみれた舌がにゅるりと絡み合う。やわやわと揉むだけだったガイアさんの手が、ふいにぎゅっと乳房を掴んで、指先を柔肉へと沈めた。わずかな痛みは、すぐに甘い痺れとなる。

「はッ、ん……っふぅ、」

 跳ねた腰を引き寄せて、ディルックさんが濡れた秘部へと舌を押し込んだ。目を閉じている分、その舌の感触を敏感に感じとってしまう。硬く尖った舌先が秘部を割り開き、襞をなぞる。厚みのある舌がひどく熱くて、ドロドロに溶けてしまうような気がした。
 じゅるる、と唾液と混ざった愛液を啜る音が、やけに耳につく。

 ガイアさんの舌も負けじと口内を丹念に舐めまわす。わたしは舌を受け入れるばかりで、もはや口づけに応える余裕がない。く、と舌を持ち上げると、ガイアさんは裏の筋をべろりと舐めた。舌を絡め合わせるのとはまた違った気持ちよさがあって、わたしはぎゅうとシーツを握りしめた。

、僕の手を掴んで」

 ディルックさんが力むわたしの手を取って、指を絡める。わたしは押し寄せる快楽から逃れられずに、ディルックさんの手に縋った。

「ンンっ、ん、ふっう」

 空いたままの片手は秘部に伸び、指が秘裂をなぞって、先端を埋め込んだ。
 舌とは違い、硬くて存在感があった。

「んぅっ、ンッは、っぁ、ふ」

 ガイアさんの親指と人差し指が、きゅっと乳首を摘まんで、すり潰すように扱く。
 口づけも、胸も、秘部もどれもが気持ちいい。過ぎる快楽に涙が滲む。増やされたディルックさんの指が折り曲げられて、なかを刺激する。それと同時に、親指の腹がぷくりと膨らんだ陰核を優しく擦った。

「ん、ぅう……ッ!」

 背が弓なりにしなり、びくびくと身体が震えた。ようやく解放された唇から唾液を溢れさせながら、荒い息を吐き出す。
 ディルックさんが涙でぼやけている。ガイアさんの親指が、目尻をなぞった。

「大丈夫かい?」
「は、い……」
「よし、それじゃあ──挿れるのは、俺が先でいいな? お前は顔に似合わず、でかすぎる」
「…………」

 柳眉をひそめたディルックさんの下腹部へ、自然と視線が落ちる。ガイアさんの言う通り、勃ちあがったそれは、下着越しでも大きいのがわかった。「」と、ディルックさんはすこしだけ咎める響きを持ってわたしの名を呼んで、視線を手のひらで遮った。

「……手淫を頼めるだろうか」

 ディルックさんは、ここにきてなお、わたしを気遣い労わってくれている。ガイアさんが「旦那様はお優しいな」と、小さく吐き捨てた。


 先ほどまで背中に感じていたガイアさんの昂ぶりが、秘部の入り口に添えられる。口づけるように先端を何度か触れさせてから、くぷりと亀頭をぬかるんだそこへと埋めた。

「ぁ……ッふ、ぅんン……」
「っ……」

 ガイアさんの声が掠れていた。余裕ぶった表情が、すこし崩れている。
 ゆっくりと、ガイアさんの陰茎がすこし入っては出て、また入ってくる。ディルックさんのように特別大きいというわけではないけれども、雁が高くて膣壁を抉るように擦るから、腰が自然と浮き上がってしまう。

 ディルックさんの手がわたしの頬に触れて、優しく顔の向きを変える。黄昏色の瞳が、迷うように揺れていた。わたしは是の意味を込めて、微笑んだ。
 躊躇う様子を見せながらも、ディルックさんは下着に押し込まれて窮屈そうな自身を開放した。ぶるん、と目の前に現れた陰茎は、確かに──人形のように端正なその顔には不釣り合いかもしれない。
 手を伸ばした瞬間、ガイアさんがぐっと腰を掴み寄せた。ぐり、と腹部側の膣壁を亀頭が抉る。

「ッひ、あぁっ、っう、」

 指先が跳ねて、先端を掠める。ディルックさんが小さく息を呑んだ。

「ふふ、。いい子だからこっちに集中しような」
「っや、まって、ガイアさ……!」

 意地悪く笑ったガイアさんは、そのままぐりぐりと執拗にそこばかりを擦りつける。ごりごりと音すら聞こえそうな感覚がした。待って、と制止のために伸ばした手を、ガイアさんは楽しげに掴んで腰を押しつけてくる。
 逃れることのできない快楽の波に、ぽろりと涙が溢れ落ちた。

「っあ! あ、ぁアっ、ひぅ、あッ!」

 ぴく、ぴくっと中に投げ出されたままの手が、ガイアさんの腰の動きに合わせて跳ねる。ディルックさんがその手に自身を握らせた。手のひらにその質量と熱が伝わって、わたしはぼやけた視界にディルックさんを捉えた。涙のせいで、どんな顔をしているのかよくわからない。
 うまく動かすことのできないわたしの手を、ディルックさんが自身の手を重ねて扱き始める。すぐ傍で自慰を見せつけられているようで、ひどい背徳感を覚える。

「やっ、う、ァっ、ッあぁあ……っ!」

 ぎゅう、とその手に知らず力がこもった。
 臍の奥に溜まった熱が弾けて、快楽の大波に息を止める。ぐっと背中が反ったせいで、突き出す形になった胸へと伽羅色の手が伸びた。

「んぅッ……!?」

 軽く胸を揉まれただけで、達したばかりの身体は敏感に反応してしまう。ガイアさんは腰の動きをぴたりと止めていたが、ヒクヒクとうねる膣壁がその存在を感じ取っていた。

「はあッ、あ、っ……」

 ガイアさんの指先が胸の中心を避けて、ふわっと円を描く。にやにやと笑うガイアさんから顔を背けると、ディルックさんの陰茎が視界を埋め尽くした。
 そこで初めて、力んだままの手に気づいて、わたしは慌てて指を緩める。とろり、と鈴口から滲んだ先走りが手のほうへと垂れた。

 唇を寄せる。
 ディルックさんは躊躇いがちに、その先端をわたしに預けた。舌を伸ばして、透明な雫を舐め上げる。

「っ……」

 ディルックさんが逃げ腰になるので、わたしはぱくりと亀頭を咥えてしまった。大きくて、全然口の中に納まりそうもない。舌でつるりとした表面を舐めると、ぴくりと陰茎が跳ねるような動きをした。

「こっちも忘れないでくれよ?」
「ん、むっ! っふ、う……」

 ふいに、ガイアさんの指が乳首をぴんっと弾いた。そのまま胸を揉みしだきながら、律動を再開させる。先ほどまで浅いところばかりを攻めていたガイアさんが、強く腰を打ちつけた。

「っく、ふ、ぁ」

 奥まで挿入されて、思わず口が離れた。唇と亀頭を繋ぐ唾液の糸が途切れて、顎先に落ちる。

「っは……」

 ディルックさんの小さなため息が、わたしの嬌声にかき消される。
 ガイアさんがリズミカルに腰を打ちつけるたびに、ぐちゅぐちゅと繋がったそこから音が聞こえて、どれだけ濡れてしまっているのかがわかる。

「トロトロだな、
「い、やぁ……っ」
「なんだ、もうイきそうか? 奥が吸いついてくるぜ」

 意地悪げに口角を上げて、ガイアさんは子宮口をぐりぃっと押しつぶした。

「ひぅッ、や、イっちゃ……! イク、いっ、くぅう……!」

 何度か同じように奥を突かれ、再びのぼり詰める。ぎゅうぎゅうと締めつけ、痙攣する膣内を無理やり抉じ開けるようにして、ガイアさんは抽挿を速める。ぎりぎりまで引き抜かれた陰茎が、入口の弱いところを擦りながら、奥を叩きつける。
 激しく腰を打ちつけられ跳ねるように揺れる胸の頂を、ガイアさんがぎゅっと潰すように摘まみあげた。もはや痛みもなく、ただ快楽のみが鋭く襲いくる。

「あ! ァ! ひぁあン!」

 最奥をぐり、と捏ねられ、ほとんど間を置かずにわたしはあっけなく達してしまう。じわりとお腹の奥に暖かい感触が広がっていくのを、ぼんやりとした意識の中で感じた。
 引き抜かれる感触にすら、身体がぴくりと震える。
 くたりと横たわれば、膣内に吐精されたものが内腿を伝い落ちていく感触を覚えた。

「おっと」

 ガイアさんが悪びれる様子もなく、おどけたふうに呟く。わたしはのろのろとガイアさんを見やってから、ディルックさんに視線を向けた。
 手淫の続きを、と身を起こそうとしてしかし、ディルックさんの手がそれを制した。

「……、ごめん」

 ぽつり、とディルックさんが小さな呟きを落とす。「え?」というわたしの疑問に満ちた声は、形になっていたのか定かではない。

 ぐちゅり。
 横たわった体勢のままわたしの片足を持ち上げると、ディルックさんが後ろから陰茎をねじ込んだ。すでにガイアさんを受け入れ、また愛液と精液でぐちゃぐちゃであるはずなのに、そのあまりの圧迫感に目を見開く。

「はっ、あ、あ……?」

 ディルックさんが、入っている。それを確かに実感しているのに、理解が追いつかない。
 たくましいその腕が、わたしをぎゅうと抱きすくめる。「」と、掠れた甘い声が、耳元でわたしの名を呼んだ。ぞわりとした感覚が、背筋から腰にかけて走り抜けていく。

 熱くて、硬くて、大きい。体勢的に激しく動くことはできず、ゆっくりと膣壁を押し広げていく。ただ挿入されているだけなのに、もう達してしまいそうで愕然とする。

「まって、やだ、まって、ディルックさん──
「ごめん、待てない」

 ほとんど涙声で懇願してしまっていたが、ディルックさんの返事は無情だった。
 わたしの下腹部に手をやり、ぐいっと腰を持ち上げると後ろから突き上げた。息が止まるほどの質量が腹の奥に叩きつけられて、わたしはなすすべなくのぼり詰める他なかった。

「ひッ……う、ァあ……!」
「はあ……、すごい。溶けてしまいそうだ」

 びくびくと震える身体を労わるように、首筋に口づけて、耳に唇を触れながらディルックさんが囁く。シーツに額を押しつけながら呼吸を整えていると、ガイアさんの声が降ってくる。

「はは、言ったろ? これは好機だってな」

 ガイアさんの手がそっと髪を梳きながら、顔を上向かせる。汗や涙や唾液でぐちゃぐちゃになったわたしの顔を、ガイアさんは目を細めて優しく見つめている。
 親指の腹がそれらの体液を拭ってから、くいっと下唇を押し開いた。

「すまん、すまん。ちょっと口を借りるぜ」
「……んぅ、」

 軽すぎる謝罪の言葉と共に、まだすこしの硬さを保った陰茎を唇に押しつけられる。わたしは口を開いて、それを迎え入れた。愛液と精液の混じった、何とも言えない味がする。

「しかし、ディルック。お前も男なんだって、俺は安心したよ」
「……黙れ」
「据え膳食わぬは男の恥、ってな」

 はあ、とディルックさんが吐いたため息が、肌を撫でていく。たったそれだけのことに、ぴくっと身体が反応して、膣壁が蠢いた。

「んむ、っは、ぁア……っ」

 ディルックさんが腰の動きを再開して、わたしはまたシーツに顔を埋めた。ガイアさんの手が、戯れのように耳の縁をなぞったり、うなじを撫でる。それを感じとれたのはわずかな間で、すぐにディルックさんの動きにすべての感覚が集中する。
 突かれても引き抜かれても気持ちいいのに、ディルックさんの手が下腹部に回って、陰核をくりくりと捏ね回すのだから堪らない。

 膣内がぎゅうとなるたびに、その大きさを知覚させられる。子宮口に届いた先端が、ごりゅっと更に突き上げた。熱い楔を打ち込まれたような衝撃に、わたしは背を反らして喘いだ。目の前がちかちかと明滅する感覚がする。

──ッ、ぅ、ア、あっ、アッ」

 持ち上がった喉元をディルックさんの指が撫で、官能的な手つきで鎖骨を滑る。ぐ、とその指先が肩を掴んだ。
 その先を予感して恐ろしくなる。

「逃げないで、

 ねだるような囁きが、耳穴からわたしの脳みそを溶かしてゆくみたいだった。身動きがとれなくなったわたしの耳に、ディルックさんの小さな笑い声が触れる。
 ディルックさんにそんなふうに言われて、逃げられるわけがないのに。

 わたしの肩を掴み寄せるようにして、ディルックさんは腰を打ちつけた。肉と肉がぶつかる音に混じって、繋がったところからぐちゃぐちゃといやらしい音が鳴った。ディルックさんの陰茎でかき回された愛液と精液が、激しい抽挿に泡立ち、溢れてくる。ふかふかのベッドも、悲鳴を上げるようにスプリングを軋ませていた。
 それらの音を、わたしの嬌声がかき消している。
 どこを擦られても気持ちいいし、奥を突かれるともっと気持ちいい。最奥を抉られて達するけれど、引き抜かれていくその刺激にもまた軽くイってしまう。絶頂の高みから、ずっと降りてこられない。わたしの状態を、ディルックさんはよくわかっている、はずだ。

「はッ、……もう少しだけ、我慢して、っ」

 苦しげなディルックさんの声が、遠い。
 ぎゅう、と肩に食い込んだ指の痛みで、飛んでいきそうな意識がなんとか繋ぎとめられる。ひと際強く腰を打ちつけられ、奥に叩きつけられた刺激が脊髄をのぼって、脳みそを震わせた。ぷしゅ、と何かが噴き出る感覚がした。子宮がじんじんと痺れるような、熱を持っている。
 恐ろしいことに、膣内に吐き出される感覚さえも快感となって、わたしはびくびくと身体を震わせることしかできなかった。






 一足先に身支度を終えて、ガイアは扉の前に立った。
 ベッドで盛り上がっている二人は、もはやガイアの存在など頭にないだろう。ディルックにいいようにされてぐちゃぐちゃになったに、もう一度ぶち込みたい──と思わなくもないが、さすがに彼女の身体が持たないし、欲に負けて嫌われてはたまらない。

 もう一度、扉の上部に書かれた文字を見つめる。
 ”SEXしないと出られない部屋”。但し書きのあとに、小さな文字で生殖機停止中とあることから、この部屋が純粋にSEXを楽しむためだけのものであることが予想される。なんて運のいい。ディルックがいなければもっとよかったんだが、とガイアはベッドを一瞥する。がベッドの上で身を打ち震わせていた。ずくり、と股間が疼くが、ガイアはこぶしを握ってやり過ごす。

 扉が光を放つ。どうやら解錠できたらしい。
 ガイアは小さく安堵のため息を吐く。ここまでしておいて、出られないなんてことになったら、にどう申し開きをすればいいのかわからないところだった。




 やわらかい声に、やけに重い瞼を持ち上げる。柳眉を八の字にしたディルックさんが「すまない」と、心底申し訳なさそうに告げた。わたしを優しく抱き起こすその手に、小さく声が漏れて、ディルックさんとガイアさんが顔を見合わせた。

「ふふ、もしかして誘われてもいいのか?」

 にやにやしながらも、ガイアさんのその眼差しは気遣わしげだ。

「やだ、わたし、気をやっていたんですね」
「僕のせいだ」
「まあ、ディルックさんのせいだなんて……」
「君に無理をさせるつもりはなかったのに、加減ができなかった。ほんとうにすまない」

 そう言うディルックさんは、後悔に満ちた顔をしていた。「一発殴ってやったらどうだ? それで旦那様は気が晴れるかもしれないぜ」と、ガイアさんは呆れたように肩を竦めている。

「ディルックさん、わたしは大丈夫ですから。お二人とも、本意ではなかったのですし」
「それは違う」

 ディルックさんの力強い視線がわたしを射抜く。ガイアさんも笑みを消していた。

「僕たちは、僕たちの意思で、君を抱いたんだ。それだけは覚えていてくれないか」

 それは、どういう意味だろう。
 首を傾げてみても、ディルックさんはその答えをくれなかった。労わるように肩を撫でて、柔らかくディルックさんが微笑む。

「ゆっくり準備してくれ。扉はもう開いているよ」

 言われて、わたしは身に着けているものがシーツだけであることに気がついた。はっとしたときにはすでに、ディルックさんもガイアさんもこちらに背を向けてくれていた。

 僕たちは、僕たちの意思で──
 回らない頭で深く考えては、なんだかろくな答えに辿り着きそうもなくて、わたしはかぶりを振って考えることをやめたのだった。

純潔下心

(誘ってる / 都合良く解釈 / ごめん)