小さな包みがころりと手のひらに転がり、そうっと隠すように手を握られる。人差し指を一本、唇の前に立てて「ちゃんには特別」と、白石が小さな声で囁いた。
 いつも持ち歩いている飴ちゃんとは違うらしい。は窺うように白石を見上げた。
 ワクワクしたように輝かせる瞳を、白石が器用に片目を瞑って見せる。

「アシパちゃんにも秘密ね」

 そう念を押して、白石がの手を開かせる。四角い薄茶色の小粒は、には馴染みのないものだった。

「ふふん、これはね~キャラメルって言って」

 身を寄せ合って、小さく囁き合う。内緒話とは、どうしてこうもいけないことをしているような高揚感があるのだろう。は興味津々に白石の言葉に耳を傾ける。
 すこし距離が近すぎるような気もするが、この位近づかなければ小さな声が届かない。

「飴みたいに硬いんだけど、口に入れるとあら不思議。やわらかくなって溶けてなくなっちゃう!」
「まあ……そんな珍しいもの、わたしが頂いてよろしいんですか?」

 はぱちぱちと瞳を瞬かせた。市場であまり目にしたことがないということは貴重だし、高価なのだろう。しかし、そんなの不安をよそに、白石がからりと笑った。

「言っただろ~? ちゃんには特別」

 白石が包みを開けて、小粒を指でつまんだ。甘い匂いがふわっと香る。

「はい、あ~ん」

 ごく自然な仕草で唇に向けられたので、はつい口を開けてしまった。恥ずかしさに我に返って唇を結ぶより早く、キャラメルが口の中に放り込まれる。
 甘さが口に広がる。飴よりもやさしい甘さのようだった。そして、白石の言う通り不思議とキャラメルがやわらかく溶けていく。は頬を綻ばせた。

「ん、……おいしい」

 思わず、というようには呟いた。それが子どもじみていたかと思って、は口元を指で押さえて、白石を見上げた。

「疲れも吹っ飛ぶでしょ?」

 白石の視線にからかいは含まれていなかった。もしかしたら、体力のないを気遣い、励ましてくれているのかもしれない。そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 己の至らなさにうつむきかけたの額に、こつりと白石の額がくっつく。
 いかに近づいていようと意図的でなければ額が触れることはない。はそろりと視線を上げた。にんまりとした笑みが返ってくる。

「チョコレートのお礼だよ。だからちゃんは、ただ美味しいって笑うだけでいいの」

 白石の人差し指がの口角を押さえて「はいにっこり~」と、おどけてみせる。

「……ふふ」
「お? やっぱり、可愛い子の笑顔は可愛いねえ」
「もう、白石さんったら」

 くすくすと小さく声を立てて笑い、は「ありがとうございます」と頭を下げた。いつもふざけた態度をとっているけれど、それは場を和ませるための白石のやさしさでもあるのだろう。


「おい白石」
「ヒッ! アシパちゃん!?」

 と白石の間を割るように、アシパが身を滑り込ませる。その手に持っているストゥに気づいて、白石が素早く身を引いた。

「まったく、コソコソ何をしているんだ。大丈夫か、変なことされていないか?」

 心底心配そうなアシパに大丈夫と答えて、は白石を見やった。視線に気づいた白石がひらりと手を振ってくれる。
 は沈みかけた気持ちも忘れて、穏やかな笑みを返した。

ひとつだけ特別なもの

(俺にとって特別な君に)