いつからか、夜が深まり辺りが静まるころ私は人の目を盗んでシノンさんのテントに忍び込むようになっていた。男の人の寝床にわざわざ出向くなんて、普通の人が聞いたらあまりいい顔はされないだろう。それでもシノンさんが器用に弓を作っている姿を見られるなら、誰にどう思われようなど今となっては殆ど気にならなくなっていた。それに実際は、シノンさんは私がやって来ようが見向きもせず自分の世界に没頭している。最初のころは私の存在に気付いていないのかと思うほどで、最近になって少しずつではあるけれどシノンさんの態度も変わってきた、と思う。

例えば、私の顔は見ずに「早く寝ろよ、ガキのくせに」とか「気が散る。邪魔だ」とか何分間か置きに話しかけてくれるようになった。その内容は本当に可愛くないものばかりだけれど、たまに私を気遣ってくれてるのかなと思えるものも混じっていたりする。何でも器用にこなす人なのに口から出る言葉はいつも尖ったものしか出て来なくて、そのギャップがなんだかおかしかった。

「・・・・なに、笑ってんだよ」
「何でもないですよ」

そんなシノンさんに私がこっそり笑えば、目聡く気付かれるのも何度目になるかわからない。不機嫌な声、表情、眼差しを受け止めても本気ではないことくらい分かるようになって、もう少しも怖いとは思わなくなった。子供じみているかもしれないけれど、シノンさんが手を止めて私の方を向いてくれる一番簡単な方法がこれだから、私はただ何も知らないふりをする。シノンさんは怒っているというよりも、なんだか笑っているように見えることにだって気付かないフリをするのだ。

「言えよ」
「シノンさんはかっこいいなあ、と思って」
「お前、バカか」
「そうみたいです。だってシノンさんが好きなんですから」

私が好きだと言う度にシノンさんの自信家な顔が少しだけ崩れ、いつもの高慢な物言いの口が少し困ったように「」と私の名を呼ぶのだ。この一瞬の変化がまるでスイッチが入るみたいに、私の何かを壊してシノンさんが好きだとしか考えられなくなる。欲しい言葉はまだ貰えなくても、歩み寄ってこの距離を縮めてくれることが何よりの答えだと信じていたい。






( 08/01/25 相互記念にしぃさんへ! )