南瓜をかぶったノスフェラトゥとは、なんとユニークで緊張感に欠けるのだろうか。祭りという雰囲気がそうさせるのかもしれないが、なんだか敵を前にしているとは思えない──などと油断していたせいで、主のレオンを見失ってしまった。使用人としてなんたる失態だろう。
 途方に暮れていると、前方に見慣れた姿を見つけて、思わず息を詰める。

「おい、なに隠れてやがる」

 条件反射です、と答えることなどできず、素直に謝罪を口にしながら物陰から歩み出る。

「レオン様はどうした」
「そ、それが、いつの間にかいらっしゃらなくて」

 言葉にした途端、押し込めていた不安が湧き出て、情けなさも相まってぶわっと目頭が熱くなる。
 「れ、レオン様に何かあったら、」思わず、めそめそしてしまうが、ジョーカーの口から慰めなどが出てくるわけもなく、額を小突かれる。相変わらず容赦がない。むしろ、痛みのせいで涙が出るくらいだ。

「執事長…」

 言い伝えによると友情が深まる祭りらしいが、そんなこと微塵も信じられないほど、いつも通り冷たくて素っ気ない。赤くなったであろう額をさすりながら、ジョーカーを見上げる。

「……情けない顔をするな」
「すみません」
「レオン様のことだ、心配はいらんだろう。お前より腕が立つ」
「……は、はい……」

 それはそれでどうなのだろう。主人を守る立場がない。

「さっさと泣き止め」

 ごし、とジョーカーの親指が目元を拭った。いかつい籠手を外してくれているあたり「執事長がやさしい」と、思わず口をついて出るほどに意外だ。
 ちっ、と舌打ちとともに素手で小突かれる。それは先ほどに比べれば、ちっとも痛くなかった。



やさしさひとつまみ

(安定のジョーカー)