服装に乱れはないか、髪の毛は跳ねていないか、所作は可笑しくないか。
 気になるところがたくさんあって、せっかくの機会だというのに楽しむ余裕がなかった。「随分、気難しい顔だな」と、ディミトリが苦笑を零した。ははっとして、慌てて笑って見せたが、ディミトリの苦笑が崩れることはなかった。

「やはり、俺と二人では不満か?」
「えっ! 誤解です!」

 むしろ、ディミトリと二人きりになれるようイングリットに協力してもらったのに──
 そんなことは口が裂けても言えず、は視線を落とした。ティーカップの琥珀色には、困惑した自分の顔が映っている。

 庭先でのお茶会は楽しい時間になるはずだった。いつもは楽しい。
 ただ、二人きりになった途端にこうなったとなれば、これまではイングリットが上手く間を取り持っていてくれたのだろう。彼女はディミトリの幼なじみであり、の親友である。はっきり言ってしまえば、イングリットを抜きにしたディミトリとの関係とは、ただの同級生だ。

「……ディミトリ様こそ、つまらないでしょう」

 ディミトリが不思議そうに首を傾げた。さら、と陽の光を受けて輝くような金髪が動きに合わせて揺れる。

「俺はつまらない顔をしているだろうか」

 はディミトリを窺うように見る。
 言うほどつまらなそうにも、かと言って楽しそうにも見えなかった。ただただ、端正な顔がそこにはあって、はすぐにまた視線を下げる。

「えっと」
と二人きりというのも悪くはないと思っているんだが」
「え?」

 は思わず己の耳を疑った。都合のいい幻聴ではないかと訝しむが、ちらりと覗き見たディミトリはやさしく微笑んでいたので、じわじわと頬が熱を持ち始める。

のそんな顔を見るのは初めてだな」

 カタン、と小さな音を立てて、ディミトリが腰を上げて身を乗り出す。
 伸ばされたその手が、の頬に触れる。「熱いな」と、手のひらが頬を撫で、指先が輪郭をなぞる。俯いていくの顔を、顎先を掬い上げてディミトリが視線を合わせる。

「訂正する。と二人きりが良いんだ」

 目を逸らすことができない。息が詰まるような感覚がするのは、胸の高鳴りのせいだろうか。
 わたしもです、と喘ぐように告げれば、ディミトリがより一層やさしげに笑んだ。

天才

(わたしの気持ちなんてすべてお見通しみたい)