広げていた地図をくるくると丸めて、チェス駒を箱に戻していく。
戦いの後の反省会は、もう恒例となっている。英雄の中には、軍師として名を馳せた者もいるし、そうでなくても戦争に身を置いていたものばかりである。などよりもよほど、戦術については詳しい。指揮を任せたいくらいなのだが、相手の能力や特性を把握する力はにしかなく、それらは戦いにおいてとても重要だ。
けれど、は戦いに不慣れである。
焦りもするし、混乱もする。落ち着いて考えてみればわかることも、その場では咄嗟に判断できない。
こうして反省会をすることで、気づかされることが多々あり、己の未熟さを知るとともにとても良い学びになっている。それに──ちら、とは視線を上げる。
それに、セシリアの教え方がとても上手なので、はもっと頑張ろうという気になるのだ。
「あなた、少し変わったわね」
セシリアが穏やかに微笑んだ。
元の世界では魔道軍将を務め、また士官学校の戦術訓練講師をしていた彼女は、名だたる英雄の教育にも当たっていたという。
はきょとんと瞳を瞬いて、セシリアを見つめた。
「以前は後手に回ることが多かったけれど、今はきちんと戦況に合わせた指揮ができている」
すべての駒を仕舞い終え、セシリアの指が蓋を閉める。
召喚師としてここに来たばかりの頃は、ただのゲームと分かっていても駒一つ失うのが怖くて仕方がなかった。その気持ちは今も同じだ。けれども、そうやって逃げ腰でいるほうが、傷を増やすこともあるのだとは知った。
自分勝手に呼び出しておいて、英雄と呼ぶ彼らに戦いを強いることは、ひどく心苦しい。だからこそ、自分にしかできないことを精一杯やるしかないのだ。
「あなたの成長ぶりは、教師として鼻が高いわ」
「セシリアさん」
は照れ臭くなって、はにかむ。
「それに、いい感じに肩の力が抜けたみたい」
「そ、そうですか?」
「ええ。前は見ているこっちが緊張するぐらいだったわ」
セシリアがくすくすと笑いながら、おどけるように言った。
は頬を赤らめて、少し唇を尖らせる。
「きっと、信頼できる仲間ができたのね」
の脳裏に、幾人かの顔が浮かんだ。
召喚による影響なのかもしれないが、英雄たちは突然異界に呼ばれたのにもかかわらず、みな特務機関に対して好意的で協力的だ。やさしく、心を砕いてくれる──
帰りたい、とが泣きごとを言わないのは、彼らもまたその言葉を口にしないからでもある。
は気恥しさを覚えながら、セシリアを見つめる。
「……セシリアさんも、その一人ですよ」
あら、とセシリアが唇に指先を当てる。「何だか照れちゃうわね」とセシリアが微笑む。美しい笑みを向けられて、のほうが恥ずかしくて目を逸らしてしまった。